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アルタ前にて

 午前零時四十九分五十六秒。
 アルタ前の広場の真ん中で四十歳代らしき男が裸で体育座りをしていた。首から『好きでやってます。絶賛便器中』という紙を下げていた。
 なんというか、あからさまな存在だった。
「何してんすか?」
 私は尋ねてみた。
 男は目を伏せながら私に言った。
「いやぁ、下手こいちゃって。無視してください。新宿のお化けって思ってください」
 震えすぎて、かつ抑揚が極端すぎて、聞き取りづらい声だった。
「服、着たほうが良くないすか」
「いいんです。どうせ十一月になればみんな死ぬから」
 私は訳もわからず深くうなづいた。零時五十八分二十秒。終電まであと少し。
「地震で? ミサイル?」
「じばじば、じば」
「磁場? 地場のヤクザ?」
「じば、じば」
 私はちゃんと分かったようにうなづいた。
「どうなるんすか」
「ミナゴロシミナゴロシみな死ね死ね死ね……」
「おつかれー」私はJR総武線ホームに向かって歩き出した。
 
 家に着いて午前二時零零分零零秒。
 彼が預言者ではないと言い切れないなぁと思いながら、シャワーを浴びた。少しいい酒を呑んだ。残りあと一ヶ月と二日。


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不動産屋の写真を修正

「ちっちゃい会社ですから、いわば何でも屋ですよ。依頼があればサイトの構築もやりますし、商材写真の補正もやります」
 米谷さんは今年三十五歳。職業は中小企業のWEBデザイナー。
 私には珍しい他会社との合同飲み会で、酔っ払い同士が迷惑な客からの注文や、珍奇な話を次々と語り合っていた時、私が水を向けると米谷さんは酔眼で話し始めた。
 ほんとうにあったことか、作り話なのか、その後、尋ねてみたこともないので、私にはわからぬけれど、ちょうどメンヘラ女で痛い目にあったばかりの私だったので、普段よりも背筋がぞっとした。
 話というのは、

 うちみたいに小さいところだと、仕事選んでらんないですから。怪しいところからの依頼があっても、断ることなんて出来ないんです。
 仕事が多岐にわたっていいじゃないかって? いやいや、貴方、企画物のAV女優見て「色々できて羨ましい」って言いますかねぇ?
 都内の不動産屋さんから依頼があったんです。これは社長のツテだったのかなぁ。内容は写真の簡単な修整で、賃貸情報サイトに載せる写真を修整欲しいってことで。あたしは不思議だったんですよ。そりゃあウチは安いですけど、今は画像の修正くらい誰でもできますから。なんでわざわざお金の発生するとこに頼んだろうって不思議だったんです。ただ送られてきたデータを見て納得しました。あぁこりゃあ、ねぇ……って。十数枚の写真。広めの1DKの写真。どれにも女と思われる訳わかんない何かが写っているんです。
 なんで女だとわかるんですかって? わかるんですよ。あぁデータ残しときゃ良かったな畜生。十人見りゃ十人が女だって答えますよ。雰囲気っつうか、怨念の具合っつうか……。まぁありていに言っちゃえば心霊写真なんですよ、うん。心霊写真。誰がどう見ても。写真に顔しか写ってないんですもん。シミュラクラ現象? あぁあの三つの点がありゃ顔に見えるってやつ? いやいや……そんなシンプルなものと間違えますかい。普通に顔なんですよ。似てるのは能面。能面の桧垣女。知りません? ググってください。ゾッとしますよ。あたしは一見してゾッとしましたよ。知り合いのシャブ中みたいにな顔だって。
 あぁすいませんね。鮟鱇の肝大好きなんですよ。いいですよねコクがあって。そうそう写真なんですけど。女の顔を消してくれって依頼なんです。まぁそのままじゃ賃貸情報サイトに載せられませんからね。いや、けどそんな大手のサイトと違いますよ。ウチらと同じような中小の不動産がカッコつけて作ったような賃貸サイトです。えぇ。送られてきた写真に写ってる女の顔らしきもの、消すのは簡単なんですよ。Photoshop使えば一発ですよ。あたしどんなブサイクの女だって可愛くできる写真修正スキルありますからね。不要なもの消すのなんてお茶の子さいさい、全く。
 まぁ簡単でした。なんだろうなぁ気味悪ぃなぁって思いながらチマチマ消していって。出来上がりは綺麗なもんです。どう見ても綺麗なマンションの一室。いっちょあがりってな具合で、一仕事終えたんです。それであの日は牛丼でも食って家に帰ったのかなぁ。まぁいつも通りですよ。いつも通りの底辺の生活ですよ。飯食って安酒飲んで。風呂入って布団に潜り込みました。あたし寝つきはいい方なんですぐにグースカですよ。ただ珍しく目が覚めました。それも当然なんですよ。足元に人の気配。もちろん誰も泊まりにきてやいません。
 じっと見つめると、蟻の群れみたいにみたいに、何かモヤモヤと蠢くものがあるんです。気のせいかと思って眼をこすってみるんですが、やっぱりなんだか動いている。あたし横になったまま、息を呑んでそのモヤを見つめ続けました。すると見ているうちにしたがって、薄モヤみたいなものがだんだんハッキリしてきて、窪んだ眼窩に子供がラクガキしたような眼、鼻と同じくらいに突き出された頬はロウロクみたいな色で、厚い唇の中の腐った歯までも、ちょうど画像のダウンロードが終ってない画像みたいに、ぼんやりとですが妙にハッキリと見えるのです。
 ああいう時って動けないもんですねぇ。息を殺していると、ペタッペタッ……って濡れた足音が聞こえてくるんです。目だけが動くんです。足元に寄ってくるのを見つめるだけ。
 近づけばもっとよく見えます。
 女でした。
 不動産から送られてきた写真に写っていたのと同じ、能面みたいなツラした女。
 一目見てコレは人間じゃないとわかりました。死人の無表情でした。視線を下げると女の手にはハサミが握られていました。なに? なに? 掠れて声も出ません。部屋の湿度はぐっと高くなります。寝転んでるだけなのに汗がひっきりなしで後ろ髪が濡れているのがわかります。あぁ厭だなぁ厭だなぁ……って思っていると微かな声が聞こえました。内緒話のようなトーンで、……った……つった、つった……うつった……。
<……うつった……うつった>
 幻聴だって自分に言い聞かせるんですけど、信じ切れないんです。あたし霊体験なんて今まで感じたことなかったですから、まるで初めて手品見たときみたいに怯えるばっかりなんです。ただただコソコソ小声の『うつった』が『写真に写った』ことを言ってるのか、それともあたしの部屋に『移った』と言ってるのか、どちらの意味だろうって必死に考えちゃうんです。後者だったら絶望的に嫌ですから。考えたってわかるもんでもないですけど。そうこうするうちに、女が動きました。
 能面女が、手にしていたハサミを持ち上げたんです。
 固まり続けるあたしをよそに、女はハサミを口に入れます。まるで歯磨きみたいに激しく動かすんです。
 ジョキッ、ジョキッ、ジョキッ。って。「ぺっ」って床に吐き出したものを視線で追うと、舌の残骸でした。
<うふっは>
 叫びましたよ、ええ。深夜なのに。近所迷惑だろうがどうでもよくて。それよりこっちは自分がキチガイになるんじゃないかって恐怖でいっぱいなんですもの。逃げ出したいんですけど身体が動かない。布団を引っ張りあげることもできない。あたしはあんまりにも怖くて正直な話、ぼろぼろと涙をこぼしました。堪忍してくれ、堪忍してくれってひたらす念じながら。
 ただ……それが良かったのかもしれません。ほらガキん時って泣いてたら寝オチしてたってことあるじゃないですか。あたし大人ですけど寝オチできたんです。

 気がつくと朝になっていました。
 身体が動きましたから、さんざん部屋を探しました。だけど昨夜の証拠となるものはどこにも残ってません。当然かもしれませんが。突然部屋に現れたお化けか何かわからないものが、痕跡残すわけありません。あたしの涙の跡くらいでした。
 ま、あたしの話はそんなとこです。
 あ、貴方、あたしの幻覚だと思ってらっしゃる。
 証拠ないならそれは夢だと思うんでしょう? いえわかるんです。前にあたし、別の怪談収集家にお話した際もそんなツラされました。まぁいいです。証拠にはなりませんけど、次の日会社行ったら上司にドヤされました。先方からクレームきてるって。不動産屋がえらく怒ってるって。
 そりゃそうです。
 修正したはずの画像が、女の顔を消したはずの画像が、元に戻っていましたから。
 あたし上司にペコペコバッタで謝りながら、一方でほっとしました。あぁあたしの家から戻ってくれたんだなぁって。再度の修正作業は断りました。どんだけ怒られようが、どんだけ会社で立場が悪くなろうが、再びあの能面女とご対面したくないですからね。


 後に確認すると、件の写真が写る部屋は、錦糸町駅から十分ほどにあるマンションだという。
 部屋の借り手はちゃんといたそうだ。


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子供のころ 三題

 「備某録」管理人:円満ゑび寿氏より聞いた話。
 
 清水さんが幼少時、飼っていたハムスターが妊娠した。
 父親から「何匹産まれると思う?」と聞かれた清水さんは、目の前のハムスターをじっと見つめたのち「三匹」と答えた。
 二週間ほどで産まれた赤ちゃんは、その通り三匹だったという。

 お母さんハムスターにの頭上に、三つの淡い光が漂っていた様を、大人になってからも清水さんは覚えている。


 × × × × × ×


 桶井さんは五歳の頃、ボーリングの球ほどある大きさのダンゴムシを見たという。
 それだけなら子供にありがちな空想と現実の混濁と説明がつくのだが、彼女の母親もそれを目撃していた。
 父親や周囲の人に母娘揃って説明したので(無論得られた反応はクールなものだったが)間違いないと桶井さんは今でも考えている。
 だが桶井さんが高校にあがるころになると、母親はそのダンゴムシの話をなぜか忘れていた。
 いくら話しても、露ほども憶えていなかったという


 × × × × × ×


 梁さんは母親が再婚するまで貧乏暮らしだった。
 六畳二間の家賃一万五千円という異様に安いアパートに、小学三年生まで住んでいた。当然低所得層が住むアパートだった。
「子供心に変だなぁ変だなぁって思ってたけど……」
 そのアパートでは夕方になるときまって、住人全員が、部屋の表札を隠していたという。
「あれは何の為だったのか……理由は最後まで聞けずじまいで、お袋は逝っちゃったよ」 
 ただ何度も何度も念入りに「名を知られたいけんけん」と注意されたことだけは覚えているという。


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怪談朗読チャンネル八木崎様による朗読

怖い話専門のサイトを運営しておりますと、稀に良いことがあるようです。

今回は怪談朗読チャンネル八木崎様より朗読して頂きました。
再生回数はなんと10万越え!
もちろんこれはひとえに八木崎様のお力なのですが、この数字に当サイトが微力ながらお役に立てたと思うと、なかなか感慨深いものがあります。

朗読して頂いた話は十三話。

拾った4GBメモリ
花火大会
ブックオフで大量にこち亀を買った
電車の吊り革
巨頭老人
喫茶店で聞いた話
歯磨き中
風呂掃除
あなたは強い子立派な子
軽やかな呪い
猫潰し
消しても消しても死ね死ねというコメントが消えない



 制作期間:半年と仰る動画は、音の作りこみが煌びやかです。

 怪異が朗読から伝播してくるような、禍々しさを憶えます。

 晩夏の折、背筋が寒くなるような怪談朗読は如何でしょうか。

 八木崎様は他にも多種多様な禍々しい朗読をされておりますので、ぜひご覧ください。
 怪談朗読チャンネル
 twitter: https://twitter.com/kaidanroudokuch
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