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 連休の前日、國松さんは飲み会でしたたかに酔い、新宿駅ホームを歩いている最中にホームから転落した。
「落下する感じに酔いが一発で醒めたよ。いやぁやっぱり落ちる瞬間に色々考えちゃうんだよなぁ」
 あぁこんな悲惨な最期なのか。
 冷蔵庫のイクラ食っちまえば良かった。
 ケンジのバイトの話聞いてないなぁ。
 ヤマさんと週末約束してたのに。
「不思議だよな、一瞬なのに。ただ落ちても電車はこなかった。痛みなんて感じないんだけど、もう恥ずかしくて恥ずかしくて。見上げるとホームで俺を見る人わらわら集まってきてるんだもん」
 慌ててホームに手をかけ、登ろうとする。
「大丈夫ですかぁ?」
「車掌さん呼んできた方が」
「おっさんヤバいね」
 という頭上から浴びせられる言葉に、國松さんは異常を聞き取った。
「死んでみせろ」
「思い出作らせろ」
 女性の声だった。どす黒い声だった。自信はないが二人分の声だったという。


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ちょっとした話

 次回のイワレ記事作成のため、新宿区戸山にある箱根山に足を運んだ。
 新大久保から歩いて二十分ほど。
 ティーンで混雑する韓国系のショップが途切れると、空気は急転する。インフルエンザが蔓延する教室に入ったときのような、目には見えないというのに、どこか空気が毒気を帯びている。ただこの毒気は、高齢者にはきっと届かない。生気と反対の位置にある空気。
 その中で歩く自分は場所柄、ガセ情報で裏風俗を探すにーちゃんにしか見えないな、と思いながら目的地を目指す。
 イワレ記事用の写真は別日の夜に訪れるつもりだが、昼間訪ねるとそこはどこにでもある春の公園だ。登山とは呼べない四十四メートルを登っても大した景色は見えない。団地が目前に広がるばかりである。

 だがこの場所では百体以上の人骨が掘り出されている。
 骨はドリルによるものと思われる穴開きや、ノコギリで切断された跡がある。
 人骨は、悪評高き日本軍の731部隊による人体実験されたアジア人である可能性が高い。
 四分の一は女性で、未成年者も含む。

 試しに何枚か写真を撮ってみる。
 ネットで見た体験談では昼間でも『白い女』や『人魂』が写るという。 
 だが撮影した写真には何の異変も無い。
 その代わり撮ったこともない、真っ黒な画像が四つ並んでいる。
 このこと自体、何の不思議もない。
 ポケットに入れている間、もしくは撮影する直前に誤作動し撮影ボタンが押されたのだろう。
 写ったのはポケットの暗闇。
 そう考えた。怪異とは呼べるわけもない。
 なんとなく写真の詳細情報を見る。
 撮影の日付は二月二十四日の金曜日、午後四時頃。
 思い出す。
 この日は平日。私は仕事中。脳裏に微かに警告音が鳴る。キィー……ン。厭な予感がする。
 思い出す。この日、私は携帯をアパートに忘れていった。
 メールを確認すればその日付で女から返信を催促するメールが届いていた。それに対応する私のメールもあった。
 
 となると――写真は誰が撮ったのだろう? いつの間に私の携帯に入っていたのだろう。
 泥棒が忍び込んで撮った? そっちの方がまだいい気もする。
 それでも月末までに再び私は箱根山を訪れなくなくてはならない。それも夜に。イワレの記事を更新するために。次回は一体何が写るのだろう? 

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 そして以下が本題である。唐突だが勧誘である。暗がりへのお招きです。
 ――こんなスリリングな体験、貴方もいかがでしょうか。
 正直に申しますと、世間で話題になる『パワースポット』があるということは、イコール『マイナススポット』もあるということです。
 このことわかるように参加することによるマイナスはあってもプラスは特にはありません。
 ですが――やや偏屈でも気立ては悪くない我々、貴方が参加してくれることを諸手をあげて大歓迎します。
 イワレは記事の投稿者を募集しています。


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二つ並んだ布団

 数年前の話。
 嘉人さんが仲間同士で沖縄旅行をしたときの話だ。
 就寝にはまだ早い時間、ハメを外し足りない悪友たちは昼間の疲れもそこそこに、夜の街に繰り出そうと声をかけてきた。
 沖縄のあるエリアにはいまだ昭和の匂いが残る赤線地帯、所謂ちょんの間があると、仲間たちは知っていた。
 嘉人さんは眉を顰めながら詳細を聞くと、元々その予定だったのか、該当区域はホテルより近かった。
「最初からそのつもりだったのか」  
 仲間たちのバイタリティーに呆れながら、嘉人さん自身も興味があった。不純な目的ではなく社会勉強のため、と嘉人さんは強調する。
 車で二十分ほど走る。大通りから路地に入ると、存在を知らなければ決して見つけられない一画があった。
 薄暗いエリアに南国風の平屋がひしめきあい、どこも老朽化がすすんでいたという。『×××社交街』と色褪せたステッカーが崩れ落ちそうな小屋に貼られてあった。
「本当にここなのか?」
 そう尋ねる嘉人さんに友人は路地の奥を指さした。
 視線をうつすと、平屋の半開きになったドアに女性が佇んでいた。
「よく見えないな」
「目の前にいって確認するんだよ」
「好みじゃなかったら?」
「スルーするに決まってるだろ」
 集合場所と時間を決めると、仲間たちは好色な笑みを浮かべて通りを散策し始めた。
 嘉人さんも置いてきぼりを食らわぬように歩き始めたものの、気恥ずかしさを感じ、佇む女性たちとろくに目もあわせられなかったという。
 そんな嘉人さんをよそに仲間たちは平屋へ消えていく。
 どうやら十五分五千円というシステムであるということは聞いたものの、到底入る勇気はなかった。
 下半身の疼きはなかったのですか?
 と尋ねてみると彼は小さく首を縦に振った。
「でも……僕は苦手なんです、欲望を表に出すのって」
 ゆえに嘉人さんは歩き続けた。
 閉店しているのであろう、戸口に板が張られた家屋も多い。それどころかどう見ても民家が時折混じっていた。
 道は碁盤目状でなく不規則で油断すると迷ってしまいそうだった。
 汗を垂らしながら赤線通りをあてもなく彷徨っていると、自分は何をしているんだろう、と嘆きたくなったという。
 女性とは目をあわさず、民家だけを眺めながら歩いていると、ふと「どんな人が住んでるんだろう?」と気になった。
 普段ならそんな失礼なマネはしないが、どこかヤケクソになっていたせいか嘉人さんは明かりのついている家々の窓を覗きこんでいた。
 だいたいがいかにも田舎な、「おばあちゃん家にありがちな居間」だったという。
 集合場所に向けて歩き始めると、嘉人さんの目がとまった。
 窓から覗き込んだ居間。
 二つ並んだ布団。人のサイズに膨らんだ布団。
 顔がある位置には、遺体にされるように、白い布がかぶされていた。
(お葬式?)
 だが葬儀にいるはずの弔問客も親族もいない。人の声がしない。足音しかしない。
 嘉人さんが背筋に冷たいものを感じ、足早にその場から逃げ出した。
 後ろから人がついてくるような気がして仕方がなかったという。

「今でもあの時の、異質な居間の光景は忘れられません。あれは何だったんでしょう」
 嘉人さんは旅行後に調べてみたが、どんな情報もヒットしなかったそうだ。仲間たちもそんなものは見ていないという。


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決まり事

 愛媛の南予地方にある進学塾では深夜の作業中、西側の階段を昇る際には『手を鳴らしながら歩くこと』という決まりがある。
 なにかを見かけたとしても口外を禁止する誓約書を、新人講師は採用時に書かされるという。


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