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怖い女

 正確には人から聞いた話ではない。
 見かけた話と聞いた話だ。
 ある日電車に乗った。そこそこに混雑した車内だった。
 ありがちではあるが出入り口の脇のスポットには、不法侵入を守るように陣取る男がいた。無論腕の中には女。
 カップルはどう贔屓目に見ても学生とおぼしき男、それに守られる二十五、六の女。
 女の年齢は正しくは三十一歳。確か。知人の元交際相手だった。天気のいい土曜の昼下がり。向こうは私を覚えていないようだった。

 一度会っただけだけで後は知人から話を聞いただけだったが、強烈な女だったので忘れることはないだろう。
 知人はよそ見をすれば浮気と怒鳴られ、風邪をひけば愛していないと罵られた。
 一度口答えをしたときには手の甲をデスクチェアで折られたとも聞いた。
 また意図的ではないにせよタンスの開閉時に爪を剥がされた。その際彼女は笑っていたという。
 それでも知人は彼女と一緒にいた。
 一緒にご飯を食べるまでは。

 炊き立てのご飯を一口ほお張ったとき、ぴりっと痛みが舌を貫いたという。
 反射的にティッシュに吐き出した。
 真っ赤に染まった唾液から、白米の粒と鋭利な刃が覗いていた。ティッシュには後から後から血が滴り落ちていった。
 カッター入りの混ぜご飯よ、と彼女は涙を流すほど笑いこけながら言ったという。

 私が飯田橋で降りるまで、男は岩のように身を強張らせ彼女を周囲からの密着から守りぬいていた。二人は幸せそうだった。

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