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屁こき男

 福地の地元では「屁こき男」と呼ばれる中年男性がいた。
 その男はの身なりは汚く、一見して貧しいとわかるような格好だった。
 もちろん周囲の住民は姿を見れば近づかないが、男はコンビニで列に並んでいる時や電車の中など避けようのな い場所で「屁をこく」という。
 福地もコンビニで食べ物を物色中、レジで会計していた男が後ろの仲むつまじいカップルに向け、壮絶に屁をかましている場面に遭遇したことがあった。
 その噴射を喰らったカップルは笑うこともできず泣きそうな顔で俯いたという。
「ごめん、怖い話を教えて欲しいんだけど……」
 私がそう遮ると福地は首を振った。
 ここからっすよ、彼は言った。
 なんとなく嫌な予感がした。
 だいたいがこの男は「昔はヤンキーでした」という空気を全く隠さず、それどころかひけらかすようなタイプで、根は悪くない人間ではあるのだが私は辟易していた。
 私が怖い話を蒐集していると耳にすると自分から連絡を入れてきた。きっと飯でも奢ってくれると考えたのだろう。それが判っていて赴く私も私だが。
 それはともかく。
 その屁こき男とやらは神出鬼没で自由自在に屁をこけるという特殊能力があると噂だったそうだ。
「それはもう見事に。ケツの穴に蛇口でもついてんじゃねぇのってくらいに」
 あのさ、と私はまた遮った。厭な予感をひしひしと感じたからだ。
「ウンコの話は嫌だ」
「違うっすよ。俺の後輩の話なんすけど」
 福地クンがまだ大学生の頃、一コ下の後輩と仲が良かった。
「そいつはほんと遊び人で……。とりあえずやらしてくれるからって理由だけで女と付き合って、まぁ捨てるんすけど、とにかく性欲まっしぐらな奴で」
 その後輩クンは金もなく、女性と会うときはだいたいが車の中で済ませてしまうらしい。
 私からすればなんとも豪快な話だ。
「その時もそいつはドンキでナンパした女をドライブに連れてって……」
 人気のない公園脇に車を止め、早速抱かせて頂こうと交渉を始めたそうだ。
 女性がタバコを吸いだしたので後輩クンは窓を全開にする。
 すると前方からゆっくり、ゆらゆらと体を揺らして近づいてくる屁こき男が目に入った。
 もちろん地元民である後輩クンは男の存在を知っている。隣の女はただのホームレスを見つめている後輩クンに「どうしたの?」と声をかけたそうだ。
 手に芋を持った屁こき男が近づいてくる。
 寒いせいか、茶色い毛布をはおっていた。
 開いた窓から、数メートルも離れているというのに異臭が届いた。
 後輩クンは目を剥いた。
 よく見るとそれは便だった。
 セメントのように全身にこびりついている茶色いものは、乾いてひび割れた便だった。
「マジかよ……」
 福地は後輩クンから聞いた説明を私に繰り返した。「さらに屁こき男は手にした芋をばりばり齧ってて……」
 私は手で制した。ストップ。それ以上はいい。私が望んでいる話と違う。
「怖い話すよね? 聞きたいの? 無問題っすよ、怖いっす」
 男が「サク、サク」と音をたてそうなほど気持ちよく齧るそれは、便だった。
「屁こき男の目標は完全に後輩の車でした。理由なんて今になってもわかりません。誰にもわかりません。屁こき男だって理由なんてわかってないすよ、きっと」
 漂ってきた便臭は車内に充満し、女は踏まれたカエルのようにえずいた。
「後輩は急いで窓を閉めようとしたんすけど、それよりも早く屁こき男は手をかけたんです。助手席の女は怯えてたらしいんすけどもっと怯えてたのは後輩で」
 それでも女の手前だ。後輩クンは「手を離せ」と怒鳴ったそうだ。
 男はニタニタと笑った。
「最悪なことに、そいつ進化してたんすよ、『自由自在に屁をこける』から『自由自在に糞を垂れる』って。車と反対に体をクルっと回して、後ろ姿を見せたんすよね、そんで」
 その後の展開が予想できてしまい私はひぃ、と小さく悲鳴をあげた。
「もっと最悪なことに、後輩はパニクっちゃって、止めろぉぉぉぉって叫んじゃったんすよね。口を開けて。その口内と車内に飛び込んできたのが、糞。煮込んだカレーみたいなクソ。喉を直撃した下痢便。女はクソまみれで泣くし、後輩は吐くしでもう地獄っすよ。半端ねぇっすよ」
「……」
「後輩の奴、これ話してから吐いてましたからね。後遺症っつーうんすかね? よっぽど引きずってんすよ。その後仲間引き連れて、屁こき男殺そうとしたらしいんすけど、見つけられないって。けど、あいつ誰にもバレてないつもりらしいすけど、噂伝わってきて、その事件以来スカトロに目覚めたみたいで、フツーに食うようになったらしいすね。S嬢に金払ってビニールに詰めてもらってるみたいすよ」
 途中から俯いていた私に、福地は言い切った。
「マジ勘弁しろよ……」
 私はそう言うだけで、もう、精一杯。
 うんこの話はもうお腹いっぱいです、と私は謝って席をたった。
 福地はゲラゲラ笑いながらコーヒーーをじゅるじゅると啜った。
 話を聴く相手は、選ばなければいけない。私の教訓だ。


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コメント
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うぅ…

お、お疲れ様でした…;

2014-06-03 00:31 │ from のえURL Edit

屁こき男

きもーーーーーーーー

2016-11-27 21:11 │ from くみちんURL

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