怖い話 - 人から聞いた怖い話-実話恐怖話コレクション- ホーム » 怖い話 » ダルマ

ダルマ

 斉藤さんは大手建設会社(それはもう、私が逆立ちしたって入れない会社である)の経理部の一員だ。
 幼馴染の紹介で知り合った彼女に携帯の番号を聞くが、彼女はガラケーもスマートフォンも持っていないという。
 あぁこれは何か勘違いされているな、と思った私は「決して貴女を口説くつもりはない、その対象外だ」と熱心に伝えた。
 私のあまりの力説ぶりに不愉快さを露にした彼女だったが、怪談の収集家であると告げると、一転して携帯の類を持たない理由を教えてくれた。

 一ヶ月ほど前に遡る。
 斎藤さんは気づけば携帯電話を紛失していた。
 タクシーの中か、電車の中か。あるいは喫茶店かスーパーか……。
 もともと携帯が好きではないタイプなので、一晩くらい触らないことも多々あった。部屋のどこかに投げておいて必要になったら使っていた。
 しかし使わないが無くなると非常に困る。
 パスワードが設定されてあるので個人情報が漏れる心配はない。会社にも迷惑はかからない。
 だがそれは拾い主が斎藤さんの家族や友人にも連絡できないことを意味していた。
 藁をも掴む思いで近所の交番を訪れると、なんとあったそうだ。
 私も泥酔のあまり紛失したことがあるが、あれだけ心もとない気分はない。
 手元に戻ってきた携帯を見て(二度とこれは離さない)斉藤さんはそう誓ったそうだ。
 あまりの安堵に涙さえ出そうだったという。

 三月の決算時期。斎藤さんはクタクタで帰路についていた。
 携帯が鳴った。
 一瞬、会社からの連絡だと思い身がすくんだ。
 しかし着信名には「ダルマ」とあった。
 表示される番号は会社の人間のものではない。無論登録した覚えはない。
 酒に酔って記憶を飛ばしたこともなかったので斎藤さんは頭を捻った。
 不審に思いながら通話ボタンを押した。
「…………ぼ……な…………す」
「……こ…………らな……そ」
「はい?」
 電波が悪いのか、激しいノイズが混じりうまく聞こえなかった。
「……んぼん……くす」
「も……から……くそ」
「誰ですか? 聞こえません、かけ直しましょうか?」
 斉藤さんが通話を切ろうとする刹那、ノイズが消えようやくクリアに聞こえた。しかし、あまりにクリアに聞こえすぎた。まるで脳内に直接ぶち込まれたようだったという。
「なんぼんなくす」
「なんぼんなくす」
「……え?」
「どこからなくそ」、「いつからなくそ」
 考える間もなく、本能の赴くまま斎藤さんは電話を切った。
 いたずら電話。
 背筋を這うナメクジのような不穏さを振り払うように、強引に自分を納得させた。

 帰宅後、携帯に登録してある電話帳を隅まで確認したが「ダルマ」と登録された名前はなかった。
 電話をかける側が、着信名を好きなものに表示させることは可能なのだろうか。
 斎藤さんは翌日の昼間、公衆電話から件の番号にかけた。
 現在使われておりません。そんな返答があった。
 故障としか考えられなかった。
 携帯ショップに持ち込もうとしたが、あいにく待ち時間が30分以上もあり休憩時間が終わってしまう。
 その日の仕事も終わりは遅かった。会社の近くの携帯ショップに寄ったがやはり閉店していた。
 結局気味悪さからは逃れられず、携帯は電源を落としてバッグの、底に仕舞い込んだ。
 また明日の朝出せばいい。
 だが――。
 ピリリ、ピリリリリピリリピリリ。
 鳴らないはずの電話は鳴った。
 電話に出れるわけがなかった。斎藤さんの全身を恐怖が包み込んだ。
 携帯はハンズフリーの状態のように、勝手に喋り始めた。
<そこどこ>
<そこどこ>
<そこどこ>
 一拍置いた。
<むかうねむかうねむかうね>
 バッグの中に生首が入りこんだような気がした。
 音の源を探る気には到底なれず、斉藤さんは走ってアパートに向かった。
 信号がもどかしかった。
 後ろから何かがついてくるイメージが離れず、アパートに着いてからも上階からのエレベーターが異様に遅く感じた。
(まだなの)
 部屋のドアを開けると急いで鍵をしめた。震える指でチェーンロックをかけた。一息ついて、電気をつけた。
 部屋の中央に巨大なこけしのようなものがあった。
 四肢が切断された、顔の皮膚が滅茶苦茶に引き裂かれた男だった。
「西瓜の皮を剥ぐと、ちょうど、あんな感じになる」と斎藤さんは言う。
 真っ赤で瞳の部分だけが黒い。歯茎らしきものが大きく開いて「げひぃっ」と嗤った。
 ヒューズが飛ぶように斎藤さんは気絶したという。

 斉藤さんは、不幸なことに、頬に生ぬるい風を感じ覚醒した。
 ダルマの顔が上から覗きこんでいた。
 近くで見ると、朱剥けた顔からのぞく瞳は腐った葡萄のようだった。奥歯だけ残った口を、斉藤さんを飲み込むように開いた。
「ばぁ」
 今度こそ斉藤さんは日が昇るまで失神することができた。
 いまだその時のことは、録画した映像のように斉藤さんの脳裏にこびりついているという。
 翌朝、床で目が覚めると体中がベタついて仕方がなかったそうだ。まるで西瓜の汁をそのままにした時のアレ、だったそうだ。
 以来、斉藤さんは携帯を持たないことに決めている。


ブログパーツ
コメント
非公開コメント

ノリが平山夢明っぽいんだが

2013-08-14 11:16 │ from 名無しURL

トラックバック

http://kowahana.blog.fc2.com/tb.php/120-b6dd2a52