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あーおーいーさんみゃーくー♪

 久留さんは改札を出た時、傘を会社に忘れてきたことを思い出した。
(帰ったらすぐにお風呂だなぁ)
 濡れることを覚悟した久留さんはコンビニで傘は求めず、アパートまで十分の帰路を歩き始めた。
 鞄を雨よけにかかげ、なるだけ軒下を選んで歩く。
 歌声が聞こえた。
 周囲を見渡すと、前方に傘を差す女性がいた。傘の下からツインの三つ編みが垂れていた。
 その人しかいなかった。
 きっと傘の女性も、自分しかいないと思い込み、油断しているとだろうと久留さんは思った。
「あーおーいーさんみゃーくー♪」
 歌声は、美声だった。
「さみしぃーゆめよさよおならー♪」
 歌手志望の人が、練習がてら歌っているのかもしれない。
 雨が降る中、傘を差した三つ編みの女性は絵になった。まるで映画のワンシーンのようだった。
 久留さんは少し得した気分だった。
 見ようたって見れるものではない。
 夢を追うような、頭の悪い知り合いもいない。
 こうなると傘の女性の顔が見てみたい、久留さんはそう思った。
 足を速めるが、それにつられるように傘の女性も速くなる。
 追いつけない。
 久留さんはどうしても顔を見たい、その衝動を抑え切れなく、突如駆け出した。
 そして追い越し、振り返った。傘の下から覗きこもうと、幾分かがみこんでいた。
 傘で隠れている顔はなかった。
 正確には、女の鼻から上はなかった。
 パクパクと、引き続き歌う口だけが異様に存在感があった。
 突如甲高い声が壊れた音声ファイルのように、気色悪く連続した。
「いひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ、ひぃぃぃぃぃ、ひぃ、ひぃ……」
 久留さんは前を向きなおすと、早足で逃げた。
 何も見なかったことにしようと決めたそうだ。

 傘の女は、久留さんがアパートまで三十分ほどかけて迂回する間、背後十メートルの位置でずっとくっついていたという。
「その間、甲高い壊れた音は続いてて……」
 いまだ『ひぃ』という音が耳にこびりついて離れないという。


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藤山一郎? 丘を越えて が好きだなぁ

2013-08-31 15:06 │ from 名無しURL

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