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助けてもらえなかったら、楽しく人生を送ることもできなかった

 今は東京でモデル事務所に所属する比屋根さんは、東北地方の田舎の出身だ。
 彼女は一度だけ霊体験があるという。
 ストーカーや交通事故などの怖い体験は他にもあるが、霊と思わしき体験はその一度だけだった。

 ギャル全盛期だった高校時代、夏休みは毎晩遅くまで遊びまわっていたそうだ。
 といってもクラブも夜の繁華街もないので、大人しいものだったと比屋根さんは振り返る。
 その日は一人が免許を取得したばかりだったので、ドライブがてら隣町の大きな公園まで同級生男女五人で花火をしにいったそうだ。
 その中には「いい雰囲気」だった山田君という男の子もいた。どちらも決定的なことは口に出していないが、互いへの好意は周囲にもわかるほどハッキリしていたという。
「くっつくのも時間の問題だったけど、それまでの期間が一番楽しいでしょ。だから二人とも引き伸ばしてた気がする」
 三袋は用意した花火だったがすぐに底をついた。だが帰るにはまだ早い時間だった。
 一人が来る途中でカラオケを見つけていたので、そこで歌っていこうと話はまとまった。
 蒸し暑い夏の夜、とめどない嬌声と虫の音、交わされる視線。永遠にこの時間が続いて欲しいと比屋根さんは願ったという。

 到着した初めてのカラオケ店の入り口脇に、盛塩があることを比屋根さんは見つけた。
 そのことを皆に指摘したが友人たちは全く重く捉えなかった。
「縁起がいいからやってるのよ、きっと」
 友人の解釈にも一理あった。
 比屋根さんもせっかくの楽しい時間に、水を差すことは馬鹿馬鹿しいと考えた。
「そっか。そうだよね」
 だが盛り塩はよく見ると、三角錐の頂点の部分が黒く染まっていたという。
(どうしたらこんなに汚れるんだろう……?)
 比屋根さんの頭に悪い想像が働き始める前に、山田君や友達のせかす声に背中を押され結局は入店した。
 店内は異様に寒かったという。
 冷房を弱くしてもらおうと思ったが友人は「ここ暑いね。けっこうボロなんじゃない?」と眉根を寄せていた。
 不安を抱え始めた比屋根さんをよそに友人達は「機械にあるの古いのばっかりだったらどうする?」などと話しながら案内された一階の角部屋に向かっていった。
 比屋根さんも山田君に促されるままカラオケボックスの中に入った。
 順々に歌っていく中、比屋根さんはどうにも落ち着かない気分で歌う曲を探していた。
 山田君が歌うノリのいい曲にもおざなりに手拍子をして、できれば早く帰りたいと考えていた。
 楽しい気分もすっかり消え、お風呂に一週間も浸かっていないような不潔な気分に襲われたという。
 ――そこから記憶が飛んだの。
 と比屋根さんは語る。
「後で友達に聞いた話だと……」
 と前置きをしてからその時の状況を解説してくれた。
 友人が気づくと、比屋根さんはずっと俯いていたそうだ。垂れる髪で表情が見えなかった。屈んで覗き込む。
 比屋根さんは白目を剥いていたそうだ。
 曲が終わり一瞬の静寂が訪れると、比屋根さんは重い机を壁まで蹴飛ばした。ドリンクグラスは割れ、吸殻は舞った。
 一人の男友達が止めようとしたが、比屋根さんは髪をふり乱しながら爪をたてた両手で肉を抉ってきたという。
 誰かが「化け物の祟りだ」と叫び、場の空気は一挙にパニックに陥った。
 泣き出した子もいたが、店員を呼ぶことは補導される危険性を考えると躊躇われた。
「そこで助けてくれたのが山田君」
 山田くんは自分の腕が爪で抉られるのも厭わず、比屋根さんのしっかりと抱きとめた。
 腕の中で狂犬のように暴れる比屋根さんに言い聞かせるように叫んだ。
「お前は、俺が、守る!」
 次第に比屋根さんは落ち着いていったそうだ。
 後に話を聞いた時、山田君には感謝の念で心がいっぱいになったと比屋根さんは言う。
「助けてもらえなかったら、上京もできなかった。楽しく人生を送ることもできなかった」

 ――そのあたりからは覚えてるの。
 意識を取り戻した比屋根さんが目にしたのは自分の爪の間に挟まった真っ赤な皮膚と、腕に血を滲ませた無表情の山田君だった。
「比屋ちゃん、大丈夫? 大丈夫なの? 怖かったよもぉぉぉ」
 なにこれ、と呟いた比屋根さんに友人は駆け寄った。
 事態を把握できないまま、とりあえずカラオケボックスから出ることになった。
 だが山田君の様子は明らかにおかしくなっていた。
 幾度もありがとうと声をかける比屋根さんを無視し、友人たちの手当てにも無反応だった。
 カラオケから出ると、山田君は俯いてぶつぶつと独り言を呟いている。
「いつ……で……げれん」
「……まえの……ばばばば……えねえね」
「いみこんだいぃしみこんだいぃいしみこんだ」
 男友達が声を震わせながらも「おい、ジョークのつもりかよ」と山田君の顔をあげさせた。
 白目を剥いていた。
 山田君は奇声をあげると、盛り塩を蹴飛ばし、残った塩の粒を踏みにじった。
 悲鳴があがった。
 比屋根さん自身も気づけば細い悲鳴をあげていた。
 二度目のパニックに陥った皆を残し、山田君は奇声をあげたまま駐車場とは反対の河原の方へ駆けていったそうだ。
 こうなると補導うんぬんは言っていられず、いち早く落ち着いた男子が警察を呼んだ。
 しこたま怒られた後に捜索は始まった。呼び出された両親にもさらに怒られた。その晩は警察に任され、集まりは解散になったという。

 山田君は翌日の夕方頃、見つかった。
 話によると川の澱み、水が腐っている場所に腰まで浸かった状態で泣いていたという。
 連絡を受けた比屋根さんはとにかくほっとしたそうだ。
 だが連絡することには躊躇いがあった。「昨晩の山田君を思い出して怖かった」からだ。
 夏休み明けに会うことすら、腰が引ける思いだった。ただそれは友人に話すと薄情だと思われるのが嫌で今まで告白したことはない。
 山田君は夏休みが終わっても学校にくることはなかった。
 その晩にいた男友達に聞いたが彼もよく知らないらしく「なんか病気らしいよ」と説明されるだけだった。
 比屋根さんはそのまま山田君に会わないまま高校を卒業し、上京した。

 上京した後は街でスカウトされたことをきっかけにモデルデビューをし、忙しくて田舎には帰っていないという。
 なので山田君のその後は知らない、とのことだ。田舎の友人とも連絡は途絶えているという。


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コメント
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結局、彼女は彼を救えなかったんだね。

2013-08-30 00:06 │ from 猫の手URL

今どきの女って本当に上っ面だけで薄情だよね

2013-08-31 14:56 │ from 名無しURL

まぁ仕方ないよ。皆我が身が大事でしょ。
山田君を基準にしちゃ駄目駄目

2013-09-03 20:31 │ from 名無しURL

山田に助けて貰ってその為に破滅したのに他人事にしてることなんだけど…意味が分かってないな

2013-09-29 15:27 │ from 名無しURL

こういう作者さんみたいな人が一番怖いって話だよね?恩を仇で返しても何とも思ってない

2013-12-15 11:12 │ from 名無しURL

高見の見物は自由だね

2014-03-22 04:31 │ from 名無しURL

自分は何もしなかったんだな。最低

2014-06-20 18:25 │ from 名無しURL

No title

薄情なババアだな。モデルの仕事もうまくいかないと思う。

2015-05-10 06:56 │ from 名無しURL

お互い助け合って女の霊がループするんですねわかります

2015-07-05 12:35 │ from 名無しURL Edit

えっ??彼に助けて貰ったのにそのまま上京?
好きだったのに?
凄く自己中の女性ですね(-_-;)

2016-07-23 14:39 │ from 零URL

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