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ストーブ

 今は東京の量販店勤務の猪俣さんは学生の頃、東北在住だった。
 アパートの部屋には石油ストーブがあり、基本的にそれで暖をとる。エアコンは使わない。
 大学の新歓コンパを終え、酔っぱらって帰宅した猪俣さんはストーブをつけると布団にもぐりこんだ。
 雪が降り始めた寒い夜から、ぬくぬくする布団に入ると天国だった。ストーブからはやや熱いほどの風が送り込まれる。すぐに硬く強張った身体がゆるみ、眠気がやってきた。

 喉の渇きで目が覚めた。
 床に置いたままのペットボトルを飲もうとすると、猪俣さんは身動きできないことに気づいた。
 異常に頭が熱かった。
 入っていた布団の位置が移動していた。角度も変わっていた。
 窓際にぴったりくっつく位置だったのが、九十度曲がり、ちょうどストーブが頭のすぐ向こうにあった。
 渇きの原因も、頭の熱さもストーブだった。風に揺れる髪が皮膚にあたると、反射的に猪俣さんは「熱い」と叫んだ。
 身動きができなかった。
 まるで布団ごと縄でぐるぐるに縛られているかのようだった。
 猪俣さんの頭の中でいくつもハテナマークが浮かんだ。
 金切り声をあげながら、身体を思い切り捻るが効果はなかった。ストーブから少しでも離れようと布団ごと毛虫のように下がったが、狭い1Kの部屋ゆえ位置はほぼ変わらない。熱風はとめどなく吹いていた。
(熱い……)
 このままではじっくり火傷をつくることになる。皮膚が壊死してしまうかもしれない。
(熱い……苦しい……)
(熱い……苦しい……もっと生きたかった……)
 熱でぼうっとした頭だったせいで、しばらく気づかなかった。
 自分で考えていることが、まるで脳裏に直接流れ込んでいるようだったという。
(どうして私が)
(痛い痛い痛い痛い痛い)
(一人は嫌だ一人は嫌だ)
(あなたもいっしょ)
 薄目で見ると、布団の上に正座する女が見えたという。いや女だと猪俣さんが思ったのは髪が長かったせいで、男であるかもしれない。顔の形はもう体裁が整っていなかった。
 舌と眼球は吐き出すよう垂れていた。鼻はなく骨が露出していた。頬も額も溶け出したアイスのように腐っていた。
 できることなら気絶したかったと猪俣さんは言う。
 しかしストーブのことを考えると、もし失神すれば取り返しのつかない傷を負うことになると考えたそうだ。
 猪俣さんは人生で一番の叫び声をあげた。
「死ね、死ね、死ねぇ! って怒鳴ってやったわ」
 身体の自由が利くようになると、外に飛び出し、積もった雪に身体を投げ出した。
 存分に身体が冷えると、部屋に戻らず友人宅に直行したという。
「それの道のりが一番辛かったわ。だってこっちは寝巻きでしょう。歩いて十分の道、泣きながら走ったわよ」
 その後調べたが、アパートには事故も自殺もなかったそうだ。
「だからたぶん、どこかで拾ってきちゃったのよ。タンポポの綿がくっつくのと一緒よね、どこで拾っちゃうのか私にはさっぱりわからない」
 幸いなことに、今までは恐怖体験はその一度で済んでいるそうだ。
 ただ以来、ストーブを部屋の中に置くことはやめているという。
「東京はエアコンだけでいいから本当に楽。私死ぬまで暖かい土地にいることに、その時決めたの」
 だそうである。


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コメント
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No title

温風が出るタイプなら石油ストーブじゃなくてファンヒーターのことでしょうか。

2015-12-17 15:59 │ from 名無しURL

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