怖い話 - 人から聞いた怖い話-実話恐怖話コレクション- ホーム » 怖い話 » サナトリウム

サナトリウム

 Y介は大学時代、重音部に所属していた。
 レイジ・アゲインスト・ザ・マシーンやリンキンパークが流行っていた頃だ。
 人数の多い分、バンドが組みやすそうな軽音部を選ばないだけあってそのサークルは変わり者が多かった。
 豪雨の中、水鉄砲を片手に走り回る彼らを遠巻きに眺めながら「頭おかしいなぁ」とぼんやり考えたことを思い出す。

 そんな重音部の後輩の話だ。
 長い夏休みを迎えた後輩(以下、佐藤とする)は同じ学科の友人であるAの実家に遊びにいった。
 佐藤の目的は、Aの実家の近くにあるというサナトリウムだった。
 静岡の海岸にあるサナトリウムは昭和三十年頃に廃棄されたという。
 以後、廃墟になったままである。

 学部の特徴としてビデオカメラを持っている人間は多かった。
 佐藤も安く手に入れたハンディカメラを片手に、車で五分ほどのサナトリウムに深夜二人で向かった。
 いざ廃墟を前にしても暗いばかりで、おどろおどろしさはなかったそうだ。
 積まれた絨毯、粉々になったガラス窓に横倒しになったテーブル。誰かが廃棄していったであろう大量のビデオテープ。
 友人Aが懐中電灯で照らすそれらを佐藤はカメラで舐めるように撮影した。
 ――なにもいねぇな。
 ――なぁ。期待してたのに。お前カメラ持ってて。
 ハンディカムをAに渡すと佐藤はその場に持ってきていた、アダルトDVDを数枚、床に置いた。
 ――なにやってんの?
 半笑いで尋ねるAに佐藤は答えた。
 ――供養。俺なりの供養。これはお供え物だ。
 佐藤も半笑いのまま、神社でやるように二度拍手をした。
 ――なんも起きねぇな。帰るか。
 雰囲気は楽しめたから良しとしよう。
 二人はそう自分たちを納得させ、佐藤はカメラの録画をやめた。
「そんで後輩はツレの家で酒飲みながらビデオを見返したんだよ。心霊映像撮れてたらテレビ局に送ろうぜって計画だったらしい」
 暗い映像に起こるかもしれない異変を期待しながら、佐藤とAは集中した。
 しかし懐中電灯に照らされた廃墟に心霊現象と思われるものはなかった。
 柱の影から女が覗いていることもない、不気味な声が録音されているわけでもない。
 二人は肩を落としながらビールを啜った。
 佐藤がアダルトDVDをお供えする場面まで映像は進んだが、やはり何も起きない。
「ほら、俺らもそうだったけど、ビデオカメラ止めたつもりでも録画されっぱってよくやるじゃん?」
 ハンディカムを手にしたまま歩きだすと、映像はちょうど天地を逆にしたような具合になる。
 そして異変は起きた。
 暗くはっきり見えないが、なにかがカメラに近づいていた。
 這っているように見えた。
「映像はさかさまになってるから、まるで天井を這ってくるみたいだったって」
 四つんばいで近づいてくるのは、坊主頭の子供だった。
 まんまるの穴のような目玉をカメラに向けていた。笑っているのか口は八つ切りスイカのように開いていた。
 二人が車に乗る間際には、互いの距離は五メートルほどしか残されていなかったという。
「後輩はそりゃビビったけど、半分は喜んでたよ。そりゃ期待どおりのもんが撮れたもんな」
 佐藤は動画を、当時心霊映像を取り扱っていた番組『アンビリーバボー』に送ったそうだ。
 しかし放映されることはなく、一枚の手紙を添えて返却された。
『番組で放映することはできません。ぜひ御祓いをしてください』
 手紙にはそう書いてあった。

 後日(といっても廃墟に行ってから一年三ヵ月後だが)、佐藤はバイクでツーリング中に転倒し、左足を粉砕骨折してしまったという。
 その何年後か、ビデオを見返すと子供の唇が動いていることに気がついた。
 気になった佐藤はテープをパソコンに取り込み、編集ソフトでアップにし、確認した。
 唇は「つ・れ・て・っ・て」というかたちに動いていたという。

 テープは引越しの際に紛失してしまったそうだ。


ブログパーツ
コメント
非公開コメント

トラックバック

http://kowahana.blog.fc2.com/tb.php/146-b2c09af4