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直角お爺さん

 宇賀神さんは夜遅くまで働くグラフィックデザイナーだ。
 地元の駅に降りるのが十二時を回ることも珍しくない。
アパート近くの陸橋に宇賀神さんがこっそりあだ名をつけたホームレスがいる。
「首がほんと冗談みたいに九十度に曲がってるの。子供の頃に使ってた直角定規みたいに。だから直角お爺さんって呼んでた」
 ホームレスは深夜になると寒さをしのぐため、歩いて体を暖めるという。
 宇賀神さんの帰宅が一時頃になると、お爺さんの夜の徘徊とタイミングがかちあった。
 首を曲げた状態でもホームレスの身長は高く、おまけにこちらの正面を向いているカッパのような禿頭は異様で、遠目からでもすぐわかった。
 当初はすれ違うたび不気味に思っていたものの、格段おかしな行動や奇声があるわけでもなかった。すれ違うときに距離をおくことも次第にやめたという。
 誰も治してくれず誰も注意してくれなかったせいで、おかしな姿勢で骨が歪んでしまった可哀想な人だと宇賀神さんは思った。
 突然のデザイン案件のせいで帰宅が深夜二時になってしまった日だった。
 鳴るはずのないドアチャイムが音をたてた。
 宇賀神さんは息を呑みこみ、そっとドアスコープを伺った。
 直角お爺さんだった。
「すんません。あのねぇ、僕のねぇ、このくらいの、綺麗な水色の球、届いてなぁい?」
 ドアスコープからは禿頭しか覗けず、表情は見えなかったという。声は喋り慣れていないせいか不安定なトーンだった。
 向こう側のドアから音がたった。
 かりかりかりかりかり……。
 爪でドアを引っかく、騒ぎにはならないが生理的に不快な音だった。
「どこにもなかったから、たぶんここなんだよなぁ、きっと」
 突然の出来事に宇賀神さんは声が出せなかったという。
「ちょっとだけ開けてくれませんかぁ。話し合いましょおう」
 警察を呼ぼう、そうは思うものの体が動かない。物音をたてたら刺激するかもしれない。
「盗ったらねぇ、盗ったら許しませんよぉ」
 煩かった引っかき音は止み、一転静かになった。
 いなくなった……震える指で急いでチェーンをかけた。次いでドアスコープを覗くと、
「まだいたの」
 顔がこちらを向いていた。
 下を見すぎていたせいか顔は紫に鬱血し、パンパンに腫れていた。まるでオタフクのお面だったという。小さい、真っ赤な唇が昆虫の口のように蠢いていた。
 笑ったような顔を向けホームレスは「またくるねぇ」と宇賀神さんに告げた。

 二週間、友人宅を転々としてから宇賀神さんは自宅に戻った。
 直角お爺さんは二度と目にしなくなったという。
「寒さがきつい冬だったから死んじゃったんじゃない? 雪も降ったし」
 ホームレスが死んでも新聞記事にはならないからわからない。ただいずれにせよ地元にはいなくなったようだった。
 今考えれば直角に曲がった首は落し物を探している風にも見えた、と宇賀神さんはいう。

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No title

この話の直角お爺さんみたいな人、荻窪駅のまわりで深夜2時前後に徘徊してるのよく見るんですが……
顔というか頭が真下を向いているような感じで、いつも小さめのキャリーバッグみたいなものを引きつつ……

2015-09-16 12:33 │ from 名無しURL Edit

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