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不運

 年度末。朝から働きづめだった角野さんはくたくたに疲れてアパートのドアを開けた。
(お風呂に入ってお風呂に入って、お風呂に入ろう……)
 疲労からくる痺れた頭で同じことを何度も考えた。
 湯船に浸かるあの幸福感。
 あれだけが今欲しい。
 コンビニ袋を床に下ろし、急いて室内に入ろうする。
 だが玄関に放り投げてあるクロックスがドアにひっかかった。
「何よもう……」
 蹴飛ばして内にいれようとするが、滑らない。がん、がん、がん、ドアを強引にしめるが摩擦力の高いクロックスは滑らない。
 ドアを閉める音に混じり、階段を上る音がした。
 かん、かん、かん……がん、がん、がん。
 角野さんが蹴ることを諦めて、かがんでクロックスを拾おうとした。
 途端、足音が迫ってきた。
 見上げると、目出し帽をした長身の黒影が立っていた。
 角野さんは自分でも驚くほど冷静に、クロックスをドアの外に蹴飛ばしドアを閉じた。
 鍵を閉める瞬間と、ドアノブが握られた感触が伝わってくる瞬間はほぼ同時だったという。
 え? という角野さんの戸惑いを、叫び声がかき消した。
「ぐひゅえ、じゅくが、じゅくが、ばばばああああ」
 気のふれた人間の叫びだった。
 バンバンバンバンバン、ドアを半狂乱に叩く音は角野さんが警察に連絡するまで続いたそうだ。
 十分後にやってきた若い警察官は、真っ二つに裂けたクロックスを両手に、虚ろな目で立ち尽くしていたという。

 警察官に勧められるまでもなく、角野さんは更新したばかりのアパートを引き払う決意をした。
 今でも夜ドアを開ける瞬間は震えるそうだ。
 それは大変でしたね、そう私が同情すると、
「次現れたら、とっても生きていける気がしないから、今から身辺整理をしているの」
 一人暮らしの女性が男に襲われる事例を調べているうちに、角野さんは生をゆっくり諦めたそうだ。


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コメント
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まず玄関を片付けなさいよ

2014-03-09 09:35 │ from 名無しURL

ストーカ?(・o・)

2015-08-21 12:42 │ from あURL Edit

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