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スポーツジムにて

 金森さんは年始の健康診断の結果があまりに惨憺たるものだったゆえスポーツジム通いを決意した。
 三十歳を超えてから身体は谷底を墜落していくように不調の一途をたどるという。
「Don't trust over thirty(30歳以上の奴の言うことなんて信じるな)って言葉あったじゃない。あれってさぁ……最近思うんだけど。三十を超えると身体は駄目になるでしょう? だからみんな酒を控えてジム通いして馬鹿騒ぎしなくなるじゃない? そういうのが、まだ肉体が元気な若者から見たら『退屈な大人』に見えて、そこから『三十歳以上は信じるな』って言葉が生まれたと思うんだよねぇ」
 
 金森さんが一日体験でもぐりこんだジムは予想したよりも居心地が良かった。
 フロアは清潔でありほどよい活気がある
 客層はジジババばかりなのでたるんだお腹でも恥ずかしくない。
 これなら続けられるかもしれない、と金森さんは考えた。
 ついてくれたインストラクターに痩せたいと伝えると、指示された内容は一にも二にも有酸素運動だった。
「もうほんと楽しくないんだよねぇ、ただ走るのって」 
 ipodからはThe Clashの「I Fought The Law」が流れる中、ひたすらランニングマシーンの上で脚を動かしていた。
 駅前にあるジムはビルの六階にあった。
 窓から金森さんは外を眺める。
 人が蟻のように出たり入ったりするコンビニの脇に、駐車場が見えた。
 冬だというのにシャツ一枚にスカート姿の女性がいた。
 遠目から無理やり判断すると、大学生くらいだろうか。
(彼氏でも待ってるんだろうか)
(この寒いのになんて薄着だ)
(声かけられるのを待ってるのかな)
 窓の外の女を見てあれこれ想像するのにも飽き始めたとき、隣のランニングマシーンに妙齢の女性が立った。
 走り始めた女性は窓の外を一心不乱に見つめる。
 金森さんは彼女の視界に入らぬように、やや後ろに下がってあれこれよからぬ妄想を解した。
(誘われたらどうしよう。誘ったらどうなるだろう)
 だが間もなく、まるで思考が伝わったかのように女性はストップボタンを押した。
「あー疲れた。もうやめようっと。あたしは何もわかんないから」
 ランニングウェアをまとった女性は不自然に、まるで三文役者のように棒読みしてマシーンを降りた。
(つまらん)                                                                                         
 再びもくもくと脚を動かしながら窓の外を眺める。
 すると先程眺めていた女の影が、動いていた。
 女はこちらを、金森さんをめがけて手を振っていた
 ――向こうからこちらが見えるはずがない。
 上からは見えるものだが、下からビルを眺めても窓は薄暗くなっているはずだった。
 おかしいと感じるが、
(たまたまそう見えるだけだろう)
 と考えたそうだ。
 きっと見えない位置に彼氏か友人がいるのだろう。
(そろそろ俺もやめよう。クールダウンをして帰ろう)
 マシーンの操作の為一瞬視線を外す。
 金森さんが顔をあげると、窓にべったりと女の顔が張り付いていた。

 眼窩はグレープフルーツスプーンで抉られたようにぽっかりと黒い空洞になっていた。
 頬のあちらこちらが剥げ落ち、中から白い脂肪のようなものが覗いていた。
 はだけたシャツからは押し潰された乳房が見えた。
 ガラス窓越しだったが、まるで耳元で囁かれるように聞こえた。
「ずっと見てるから」
 汚濁した声で女は嗤った。
 
「危うく失神するところだったよ」
 金盛さんは膝から崩れ落ち、動いているランニングマシーンでしたたかに腰を打った。
 駆け寄ってくるインストラクターから脱水症状を疑われたが首を振ることしかできなかった。
「あの女にもう一度会うくらいなら俺は肥満で早死に選ぶよ」
 結局金森さんはそのジムをやめ、不便だが隣駅のジムに通うことにしたという。


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