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祖母のお墓参り

 美津子が大好きだった祖母は昨年、お亡くなりになられた。
 まだ学生ということもあり、月命日の墓参りは欠かさないようにしていたという。
「電車で一駅ですし。そこの駅の和菓子屋さんに寄って帰るのが毎月のルーティンでした」
 片手に仏花、片手には管理事務所から借りた手桶のセット。
「そこの霊園はほんと大きいんです。口が悪い人はお化けが出るって言うけど、私はそんなこと一度も思ったことありません」
 天気のいい日だった。
 まだ寒さは残るものの、陽射しは暖かく風は穏やかだ。
 静寂のなかに鳥の鳴き声だけが響いていた。
 美津子の先祖が眠るお墓は管理事務所から歩いて十五分ほどだ。
 異変は桶に水を注いでいるときに起きた。
 最初、カラスの鳴き声だと思ったという。
<うんやぁ、うんやぁ>
<うんやぁ、うんやぁ> 
 振り向くと、真っ赤なジャージが見えた。
 二十メートルほど離れた隣の区を歩いていた。
 美津子に向けて歩いているわけではない。
 木陰に隠れて観察すると、白髪の男は墓地を行ったりきたりを繰り返している。
 まるでゴリラの散歩のようだったという。
(障害をお持ちの方かな)
 あたりを見回しても付き人のような存在はいない。
 平日の三時ということもあって見える範囲には美津子と赤いジャージしかいなかった。
「不謹慎かもしれませんけど……いつか見たゾンビ映画みたいでした」
 管理事務所の人に言った方がいいのかな、美津子がそう考えているうちに、気づけば男はすぐ近くまでやってきていた。
 だが美津子に気づくわけでもなく、しきりにお墓を一つ一つ検分している。
 祖母の墓を舐めるように見られたときには思わず声が出そうになった。
 男の鉄板のような体格が抗議の声を押しとどめた。
 太ももはテレビで見た競輪選手のようだったという。
 そして明らかに意志が伝わるような顔つきではなかった。
 男は墓石の並びをぐるりとまわると、
「おんめらぁ」
 奇声をあげ、力のこめられた蹴りを墓石に喰らわせた。
 一発ではなかった。少し歩く。蹴る。少し歩く。蹴る。繰り返す。
 怯えきった美津子に気づいているかは定かではない。目前の光景に美津子はただ震えるしかなかった。
 祖母の墓を素通りしてくれたときには安堵のあまり涙が浮かんだ。
「あんぁあ、死んで勘違いしでんでねぇぞっ」
 男は何度も繰り返した末、隣の墓地区にうつっていったそうだ。
 足音を立てぬように美津子は祖母のお墓を確認する。蹴られた跡はなかった。
 だが隣の立派なお墓には土にまみれた足跡が残り、添えられた花は無残に踏み潰されていた。
 犬の糞便と思われるものが投げつけてあるものもあった。
 汚されているものの共通項はどれも立派なお墓だった。
 石の倒れる音が美津子にまで聞こえた。
「おめ、おめぇ、おめぇも! やずらかに寝れるわげねぇんだがぁなぁ!」
 美津子は一目散に逃げ出したという。

「管理事務局の方に見てきてくれませんかって言ったんですけど、後で確認すると断られてしまいました。警察に言うのは私の仕事じゃないかなって思って言ってません」
 美津子は社会人になり貯金ができたらお墓の移動を考えているという。
「まだ両親には言ってませんけど、あんな、死んでまで理不尽な目にあわせられるんだったら、人のこない山奥に移動しようって思うんです」
 その後管理事務局に話を尋ねにいった美津子に、管理人は「洗っといたよ」とだけ説明したという。


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