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異食症

 細田はラーメン研究会を開催しているほどラーメンが大好きである、という。
 学生時代に仲が良かったわけではない。
 私が新宿で友人と飲んでいると、たまたま近くにいたので相席にしたのだ。
 彼は一人だった。
 酔って誰かと話したかったのか、それとも卒業後6年で性格が変わったのか、その日は饒舌だった。
 大学卒業後の近況はほどほどに話のメインはラーメンだった。
「目覚めたんだよね。奥深さに。俺はほら探求すると止まんないタイプじゃん?」
 知らない、と首を小さく振るが気づかれない。
「渋谷の○○ってラーメン屋知らない? じゃあ八王子の△×□は? 俺、池袋のラーメン屋界隈の中だと『顔』だから俺の名前出せばトッピングサービスしてくれるよ」
 行かねぇよと私の連れは吐き捨てた。
「最近開拓してんのは新宿区のラーメン屋。気難しいおっちゃんでさ、なっかなか心開いてくんねぇんだよ」
 彼がウザがられるまで店主に話し続けるイメージがすぐに湧いた。
「たまに『当たり』があるんだよ。ラーメンの麺にまじってこう、ほっそーい、黒とか白の毛が。それをちゅるちゅるって啜ってくうと、これが、また! 一点のアクセントになって、歯にはさまると糸楊枝にもなるしで、もう最高なんだよね」
 私の連れからぐっと息を飲み込む音が聞こえた。
「こないだなんてさ、超当たりの日があったんだよぉ。二十本はあったね。縮れたのやらなんか黄色いのがついているのやら。薄毛のおっさんなのに頑張ってくれたんだよ。それを味の濃い醤油ダレにつけてさぁ、一息で啜っちゃったよ。けど勿体無いから喉でとめておいて、一回エヅいて口内に戻すんだ。授業で牛の反芻ってやったろ? あれとおんなじ要領で……」
 もう充分だった。つきあいきれない。
 私たちが去ろうとすると、彼はすがりつくように裾を掴む。
「お願いがあんだけどさ、お前らも髪の毛ちょっとわけてくんね? いったいどんな味がすんのか食ってみたいんだよね、一通りの人間の。魚介豚骨、チーズ味噌、鶏塩、脂っこい醤油スープ。どんな味がするんだろうなぁっ」
 私は振り切り、最後にその店名を聞いた。もちろんそこに行くことを絶対に避けるためだ。
 
 後に彼と比較的親しかった人間に話を聞いた。
「悪い奴ではないけれど、仕事をすぐ辞めちゃって、そっから母親に監禁されて以来おかしくなったみたいだよ」
 驚いて聞き返した。
「んー、あんまり詳しいこと聞けなかったけど……母親の気を損ねると罰だって親父の遺骨を食わされるとか、言ってた。大丈夫大丈夫って半笑いだったけど、もうだいぶ壊れてるみたい」
 教えてもらったラーメン屋に関しては、ネットで調べたところごく普通のチェーン店だった。
 

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