怖い話 - 人から聞いた怖い話-実話恐怖話コレクション- ホーム » 一人暮らしの怖い話 » ポジティブに捉える

ポジティブに捉える

 サヤカは栃木から昨年東京にきたばかりの二十歳だ。
 父親は公務員、母親は専業主婦で二つ年上の兄がいる。
 高校卒業後、一年ほどコンビニでアルバイトを行い上京した。
 特に仕事にこだわりもなく、サラリーが良いという理由ですぐにキャバクラ勤めを決意した。

 キャバで働くことは怖くはなかったです。郊外にあるお店を選んだのでノルマにうるさくもないですし強引なお客さんもいませんでした。確かに都心の繁華街のキャバに比べるとお給料も少ないですけど、それでも普通に事務員するよりもらえますし、ブランド品だってそこまで欲しくないですし。
 それより地元だと知り合えない人が多くてオシャレなバーもあちこちにあって、本当に東京は楽しいんですよ。
 バーで知り合った人と朝まで飲んでだり、お店の子と遅くまで遊んだり。やっぱり東京にでてきて正解だ!って毎日、いや今も思ってます。半端ないですこっちは。
 その日は前日遊びまくったらとっても眠かったんです。
 それでも出勤まで一時間あったので、シャワーと化粧だけしておいて三十分ほど横になろうと思いました。
 私寝る時には癖があって絶対に壁の方を向いて寝るんですね。
 仮眠でもお布団は足元までしっかりかけるんです。
 寝起きはすごくいいのでアラームを三十分後に設定して目を閉じました。

 身体がまったく動かなくなっていることに気づいたのはすぐでした。
 五分も経っていなかったと思います。 
 眠気はあって、頭は痺れてる感じがするのにパチっと目が開いたんです。
 目を閉じようとしてもまるで指で強制的に開かされているみたいに閉じないんです。
 寝返りを打とうとして、身体が全く言うことをきかないことに気づきました。
 背中から肩にかけて、後ろから息があたりました。
 誰もいないはずなのに。

 ――今までそういった体験は?

 ありませんでした。
 二十歳までにお化けを見ることなければ大丈夫って聞いたいたんですけど……。
 ともかく私はそのままじっとする他なく、息を吹き続けられていました。
 もちろんそのまま終りません。
 最初、足元にすうっと冷気が入ってきました。四月頃だったし窓は閉めていましたし、冷たい風が入ってくる訳がないんです。
 だから、布団が足元からめくられたことはすぐわかりました。
 かといって全部めくるわけではありません。
 背中あたりにかかっている掛け布団の部分が上から、ぐっと抑えられているようか感触が伝わってきました。
 布団を剥がそうとしているのか閉じ込めようとしているのかわかりません。
 そして氷のように冷たい手が足元に触れました。
 勘違いでは絶対にありません。思い込みでもありません。
 はっきりした感覚で、ひやっとする指と手のひらが足首のあたりに触れていました。
 いえ掴むわけではありませんでした。
 べたべたと、まるで果物の熟し具合を確かめるように、確かな存在で触れてきました。
 実際は二、三分だったかもしれません。
 けどその時は永遠に終らないように感じました。
 私は叫びだしたいのにそれもできず「これがあと少しでも続けばきっと気が狂ってしまう」とずっと耐えていました。
 声? たぶん出ていません。出ていてもきっと遠くのインターフォンみたいにちっちゃな音でしたと思います。
 終るまで一時間以上にも感じました。けれど時計を見たらそんなには経っていません。うたたねしている時間を除けばやはり二、三分の出来事です。
 身体が動くようになると、すぐにマンションを飛び出ました。
 そのまま三日間は友達の家を渡り歩きました。

 ――今も住んでるの?

 はい。
 嫌だし不気味ですけど、引越しのお金が……。
 親にもそんな理由で頼れません。帰ってこいって絶対言われますし。お酒飲んで深ぁく寝ちゃえば、気になりませんし。
 ただあれから夢をよく見ます。夢の中で、あの氷のように冷たい手の持ち主が私のことを迎えにくるんです。
 私は河原のような場所で布団に包まれていて、ロングコートに身を隠した男がゆっくり歩いてくるのを待っているんです。
 毎回、顔が見えると気を失うように目が覚めます。
 男の顔は網の目状に、無数の傷跡が刻み込まれています。真っ赤なメロンに近いです。

 ――よく平気だね。

 ポジティブに捉えようと思ってます。
 あれは私の体調を心配して様子を見にきてれくる存在なんだって。まぁ半分無理やりに思い込んでいるんですけど。

 サヤカは引越し資金をためきるまでは今のキャバクラに勤めつづけるという。
 それまでに彼氏が出来れば相手の家に転がり込むつもりだが、今のところこれといった相手は現れていないそうだ。


ブログパーツ
コメント
非公開コメント

トラックバック

http://kowahana.blog.fc2.com/tb.php/189-46d06323