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標本

 金子さんはその日終電間際の満員電車に揺られる最中、背中に針で刺されたような痛みが走ったという。
 降車駅である西荻窪で降りると大学生らしき女の子が「スーツの背中に虫がついてます」と教えてくれた。
 ジャケットを確認すると、トンボの死骸が安全ピンで留められていた。

 二週間後、金子さんはホームで泥酔しているサラリーマンの脇腹に、黒光りしている葡萄のような物体を見つけた。
 よくよく見ると、接着剤で固めた数十匹のコガネムシが背広にピンで留めてあった。通過する快速電車の光が、鈍く反射していった。

 それ以来金子さんは隣駅を利用しているという。

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