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プロ意識

「よくインターネットの怪談で見かける御祓い師? 寺の住職とか? すげー呪いの解除法に詳しいやつっているじゃん。あんなの嘘だよな。すげー禍々しい霊とかおっかねぇ祟りがあると『これは私にも御祓いできない!』とか動揺しまくって。『お前は何をしたんじゃー』って怒ったり」
 イベント映像会社に勤める芹沢は言う。彼は大学時代からの友人だ。
「だって仮にもそいつら仕事の一環なわけだろ? なんの仕事にも通底してるけど、それで飯食ってる、プロの人間が修羅場で泣き言いうか? ヤバければヤバい状況なほどかえって冷静になるだろ? あるいは冷静を装うだろ? 残り数時間で映像を編集しなきゃいけない、撮影してた素材がパーとか酷い状況、俺いくらでもあるぞ。それでもそんな状況になったら、次善の策はないか考えるだろ。情報を吸い上げて他に採用できるアイデアがないか探すだろ。トラブルになったらかえって目が輝く同僚だっているぞ」
 ゆえにその手の怪談は創作である、が芹沢の持論だった。
「そういうの考えるのはどうせ働いたことのないガキなんだよ、きっと。働けばわかるけどさ、どんな依頼だってコスト的に不可能な代物でなければとにかく手がけるだろう? ま、トンズラこいて辞めちまうような根性無しもいるだろうけど、全体からすれば少ないはずだ。日本人だったら最後までやりきるだろ」
 それは怪談を蒐集するような生産的とは言いづらい趣味を持つ私への皮肉でもあるような気がした。 
 思えば芹沢は『プロジェクトX』や『ガイアの夜明け』に代表されるあの手のドキュメンタリー映像が昔から好きだった。
 私が「この野暮天」と返すと、芹沢は「オカルトキチガイ」と悪たれ口を叩く。
「創作かどうかは脇に置くけど、手に負えないトラブルだったらいくらでも起きるんじゃない? 芹沢だってあるでしょ」
 私が水を向けると、芹沢は首を振った……そして嫌々ながら――指を一本立てた。
「俺が本当に泣きそうになったトラブルは今まででたった一つだけ」

 とある大手企業の新卒採用向けのイベント映像を制作したときだったという。
「だいぶタイトなスケジュールだったんだよ。普段の二倍の速度でやっつけなきゃならなかった。それでも撮影して編集して音入れして、残りは微調整だけ……って状態まで用意できたんだ。他の作業もあるから徹夜だよもちろん」
 それでも終わりは見えてきた。昼過ぎには終わるだろうとメドをつけていた。
「あとは全体の試写をして問題なさそうかチェックして、問題なければ完パケって状態だったんだ」
 しかし試写をすると……。
「音にノイズがまじってた。調節したはずなのにおかしいなぁって思ってたけど仕方がない。修正しなおした。けれど今度は違うシーンが音ズレを起こす。それも直した。すると次に人の声が入っている。そんなバカな凡ミスをするわけがないんだ」
 テープは翌日のイベントで使用される。なので遅くとも本日中の夕方には届けなければならない。
 焦りながらも慎重に芹沢は修正をくわえた。
 今度は凡ミスでは説明できないような事態が起きた。
 人事の人間が会社説明を行うシーンが明らかにおかしかった。
 髪の長い女がカメラの前を横切る。
 編集時にこんなものはなかった。
 なにより撮影時にこんな状態の映像がOKでるハズもない。
 芹沢は首をひねりながら、スロー再生をした。
 女は爬虫類のような瞳をし、半開きにした口からは歯茎が露出していた。歯がないのだ。おまけに肌は乾季の砂漠のようにひび割れていた。服装は死んだ人が着るような白い装束だった。
(――どうしようか)
(――なんだこれ)
(――どうしようか)
 今までに感じたことのない、新しいタイプの冷や汗が垂れる。
 これから再び撮影する時間は物理的に不可能だ。先方の人事の人間が今これから撮影につきあってくれる時間は到底ないだろう。何より納品前日にそんなことは取引先に言い出せるわけもない。そんなことをすれば会社の信用はがた落ちである。
 次いで――この女は一体なんなんだ。
 スロー再生で確認すると――女の目は、確かにカメラを、映像を眺める芹沢を凝視していた。
「正直に言うよ。わけわかんなくて、しかもスケジュールがやばいしで泣きそうだった。あのときは仕事に匙を投げてトンズラしようかと考えた」
 それでも芹沢は逃げなかったそうだ。
 煙草を三本灰にすると思い立った。
「ハッと思って撮影したテープを確認したんだ。当然っちゃ当然だけど、そこには何も映っていない。急いでPCにキャプチャしたんだけど……そうすると駄目なんだよ、どんな理屈か知らないけれど、映像に女が入り込む……」
 時間は迫る。
「思いつくまま他の奴のPCを借りて、そこに映像をキャプチャした。すると大丈夫だった。けれど編集データももってくると、やっぱり駄目なんだ。クソ女が入りこむ。だから……」
 芹沢はまず取引先に連絡をいれて謝罪をした。
 納品が遅れることを詫び、しかし明日の早朝には届けることができると約束した。
「あとは一か八かの賭け。まったくの一から編集しなおしだよ。結果は……無事だった。結局二徹になっちったよ畜生」
 朝日が昇るころにようやく完成させることができたそうだ。
 イベントもつつがなく無事終了した。
「あれだけヘビーだったのは指三本には入るね」
 と芹沢は思い返す。
 しかし不思議なことに、それ以来映像の編集をしていても長い髪の女はでてこないという。

 芹沢は再び持論を聞かせてくれた。
「ほらデジタルになったから心霊写真やら心霊映像が減ったっていうだろ? 違うんだよ。デジタルだから最後まで直せるんだよ。霊的なものが撮れなくなったんじゃなくて、撮れたものは修正するようになったんだよ。仕事としてやってるから、お客さんの意に沿わないものを渡したくないだろう?」
 しかしこの説明をする芹沢は、それでも、ネットで読む怪談の類は一切信じていないそうだ。
 オカルト的なものはあるかもしれないが、それをネットでアップする人間はまず第一に信用できないという。
 話を聞いてから酒を酌み交わしている最中、気づいた。最後のセリフは私に対してケンカを売ってるのだと。その後酔いに任せて芹沢と掴み合いのケンカをしたが詳細は割愛。互いに三十一歳である。まごうことなきボンクラ同士である。


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