怖い話 - 人から聞いた怖い話-実話恐怖話コレクション- ホーム » 怖い話 » 金曜の夜の電車

金曜の夜の電車

 丸山さんが金曜の夜、混雑した電車に揺られているときだった。新宿発高尾行きだ。
 疲労しきっていた丸山さんはドアにもたれかかっていた。
 翌日も仕事だった。帰宅したら早めに寝なくてはならない。
 ため息をつく丸山さんの耳に乗客同士による諍いの声が聞こえてきた。
 よくあることだ。
 身体がぶつかった。足を踏まれた。連日起きていることだ。
 電車では揉めている者たちの声が異様に目立つ。
(疲れているんだから勘弁してくれよ……)
 嫌な気分になるが視線は声の発されている場所に向かう。顔はよく見えないが、座っている女性と中年男性との間に起きた諍いのようだった。
 これもまた良くあることであるのだが、その二人の横にいたのだろう別のサラリーマンもその諍いに加わった。声のトーンから若い男性だと丸山さんは予想した。
「おじさんやめましょうよ。大人気ないですよ。もういいじゃありませんか」
「うるさいっ、触るな」
「ほら、ほら落ち着いて」
「わからんならでしゃばるなお前!」
 若いサラリーマンはむっとした声をだす。
「いやいや、お前って呼ばれる筋合いないですよ。あなたが迷惑だって言ってるんですよ」
「この女の方が迷惑だろ、どこを見てる! こいつはさっきからカメラで……」
 原因はわからない。どちらが悪いのかなんて興味がない。男が悪かろうが女が原因だろうが、どうでもいい。ただただるさかった。
 誰か止めてくれないか。
 駅員を誰か呼んでくれ。
 こいつらをどこかに隔離してくれ。
 そこで好きなだけ争わせればいい。
 目を瞑った丸山さんの耳元に、怒鳴り声に近いものが響いた。
「ダマレイヨ! ダマレヨ!」
 いかにもアジア女性の発する片言だった。耳元だった。
 ――あぁ。外国人の方だって嫌な気持ちなるよな。不快だよな。うん、君は正しい。もっと言ってやってくれ。
 腐った日本人にもっと言ってやってくれ。
 ドアによりかかったままそう考えた。
 ――どんな外人女性なんだろう。
 きっと気の強そうな水商売をやっていそうな女性なのだろう。
 気になった丸山さんは迷った末、目をあけて振り返った。
「イメージしてたのは、きりっとした目の美人さん。肩を露出したワンピースかなんか着た、ちょっとエロい外人女をね、考えていたんだけど」
 間違いだったよ。

 顔が浮いていた。
 ビール瓶の底を連想させる異様に丸い眼をした女の顔が、にたにた笑っていた。乗客の頭上をふわふわと浮きながら左右に揺れる。
「ダマレイヨ! ダマレヨ!」
 キャキャキャ。
 陽気さとはほど遠い、アニメの悪役のような笑い声をあげると、光が当たった虫のように顔は乗客の足元に逃げていったという。
 丸山さんはそのままその電車に乗り続ける勇気はなかった。

 見送る電車の車窓から、いまだ揉めている三人が見えた。そのすぐ横から、まん丸の眼をした女が丸山さんを見つめていたという。

「本当に、金曜の夜の電車は厄介だ」
 重いため息をつきながら丸山さんはビールをあおった。


ブログパーツ
コメント
非公開コメント

トラックバック

http://kowahana.blog.fc2.com/tb.php/232-6e5a6635