怖い話 - 人から聞いた怖い話-実話恐怖話コレクション- ホーム » 怖い話 » あれだめだ

あれだめだ

 二年前の話。

 東方さんが昼過ぎに阿佐ヶ谷駅へ歩いている時。
 ふと見上げた高架上に男がいた。
(このクソ暑いのにパーカー?)
 東方さんは半そで短パンでも滝汗をかいている。
(つーかなんであんなとこいんの?)
 電車しか通れない場所だ。あんなところにいれば轢死してしまう。工事の作業員にも見えない。
 男はゆらゆらと揺れている。
 雲が移動し陽光が差す。
 一瞬、通報しなくては思ったが、慌てて目をそらした。
「あれだめだ」
 無意識に、喉から声が漏れた。
 パーカーのフードの下から肉がのぞいていた。
 腐臭が今にも漂いそうな茶色い肉にが、ひき肉状でパンパンに詰まっていた。
 ピーマンの肉詰めを東方さんは連想したという。
 黒い液体がぽた……ぽた……と地面に滴り落ちるタイミングで、東方さんは全力疾走を始めていた。
 駅にたどりつき、振り返った。いなかった。
 ほっと息をついて高尾行きの快速電車に乗った。
(きっとあれは見間違いに違いない)
 夏が見せた幻覚だと信じ込もうとした時、窓の外にパーカーが見えた。
 詰まったひき肉の間から瞳のようなものが……そんな気がした。
「錯覚だと自分でも思ってるんですよ。そんな馬鹿な話はないんですよね」
 だが去年も、今年も、中央線快速に乗ると時折パーカーを見かけるという。
「夏が見せる幻だって自分には言い聞かせているんですけど、どうも年々――」
 近づいてくるという。
 今年の夏には電車の窓から数センチという距離にまで近づいていたそうだ。
「次の夏がくるまでに、引越しをしなくちゃって考えています」


ブログパーツ
コメント
非公開コメント

トラックバック

http://kowahana.blog.fc2.com/tb.php/233-4afedc28