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三木さんのご母堂

 三木さんの母君はとある日蓮宗の団体(かの著名なカルト教団ではない)に属していたせいか、霊的な物に詳しい。
 少し照れながら母親を語る三木さんから、どこかきな臭い霊能力者というわけではなく、真摯に先祖供養や家族に向き合っている方のように思われた。
「後輩と廃虚探索した際に、猫か何かの小動物霊を連れてきてしまったようで、帰宅していきなり母に怒られました。まあ、家に入ると消えたらしく、結局何も無かったですが」
 当時を思い出したのか、三木さんは苦笑いを浮かべた。
「あ、そうそう。道端で死んでる動物に情を掛けてはいけませんよ。憑いてきてしまいますから」
 私も以前聞いたことがある。
 行き倒れ、救いを求めているている霊魂は手を合わせる人間にとり憑くという。
 何故か。
 可哀想と感じている状態とは、深い悲しみや激しい怒りを感じたときと同様に、心は大きく揺れている。
 不安定な心に霊魂はすっと入り込んできてしまう……と私は聞いた。
 ただこの話は猫好きの人間にはひどく受けが悪い。猫を二匹飼っている知人は「聞いたことあるけど俺は死んでいる猫を見れば可哀想って思ってる。手をあわせるし、時間あれば公園に埋めてやる。弔う気持ちも持てないクズは腐っているだろ」と顔を歪ませ吐き捨てていた。
 数刻前の知人とあまりに違う表情に驚きながら、私は自分の失言を詫びたことがある。
 もちろん何が正しいのかなんて私にはわからない。誰がわかるのだろう?
 話を戻す。
「とにかくうちの母って、そういった話には事欠かないんですよ。朝仏壇にあげたお茶が昼には半分無くなっていたり、兄がスキーで足を骨折した時なんて、ご供養上げてる最中に部屋の入り口から足首が歩いて入って来て、ベランダのドアから出ていくのを目撃したりと」
 何より三木さんが母君の器量に息を呑んだ出来事がある。
 十年前、休日に実家でお兄さんと過ごしているときのことだ。

「……私が話の全貌を知ったのは近年の事で、話自体は十年程前になります。休みの日にごろごろしていると兄の携帯が鳴りました。なにやら後輩からの相談事のようでしたが、兄はしばらく話し込むと『おお、じゃあちょっとお袋に聞いて掛け直すから待っててくれ』と電話を切りました。職場の後輩絡みの相談に、どうして母が出てくるのだろう、と不思議には思いましたが首をつっこむものでもないので、ぼんやりとテレビの続きを眺めていました」
 台所から戻ってきたお兄さんは電話を掛け直した。
 三木さんの耳に聞こえてきたのは、こんな感じの会話だったという。
『とりあえず、テーブルにジュースかなんか置いて、一声掛けて出掛けてみな』
『うん、うん』
『母ちゃんがそうしろって』
『うん、じゃあまたな。なんかあったらまた電話くれ』
 と。
「当時は何の事だかさっぱりわからず忘れてましたが、数年前にその電話をかけてきた後輩本人と会いました。ふと思い出し、当時の話を聞いて合点が行きました」

 後輩は龍一さんというお名前だ。
 時系列としては、十年前、お兄さんに電話をかけてくる二日前だ。
「龍一が友人たちとバイクでキャンプに行ったそうなんです。で、帰宅したその日の夜の事です。一緒にキャンプをした友人から電話があり、怪異の相談事をもちかけられそうなんです」
 家に帰ると、なぜか部屋の電気が点いたり消えたりするという。
 それくらい大したことないだろうと龍一さんは笑うものの友人は必死だった。
 怖い怖いと半泣きである友人を宥めるため、龍一さんは自分のアパートに呼び寄せた。
 気のせいだ。疲れているだけだ。明日電球を買い換えれば問題ないだろ。
 小一時間もすると友人は納得した顔で帰っていったという。
 後に電気が直ったという電話もあり、一件落着に思われた。

 だが次の日、龍一さんが外出しようと玄関に行くと、見知らぬ女の子が立っていた。
『お兄ちゃん、どこ行くの?』
 とハッキリ喋ったそうという。
 女の子は小学校低学年くらいの、十年前でも見かけないような古いデザインの洋服を着ていた。肌の質感はまるで乾燥した地面のようだった。皮膚はところどころひび割れ、その隙間から鼠色の肉を覗かせていた。
 瞳は死んだ魚のように濁り、頬から首にかけて痣のような黒いしみが広がっていたという。
 部屋に鍵はかかっている。
 子供が玄関に入ってこれるわけもない。
 絶句したまま龍一さんはリビングに戻り、煙草に火をつけた。
 不思議と龍一さんは怖くはなかったという。
 ただ冷静なまま、昨夜の友人の顔が思い浮かんだ。
(……あの野郎置いて行きやがったな!)
 怖くはないが、なんとも気色が悪かった。
 かといって放置するわけにもいかない。
 再び玄関に行くと、女の子はいなくなっていたという。
 部屋に鍵はかかったままだった。チェーンもかかっている。
 途方に暮れた龍一さんは、三木さんのお兄様に電話したそうだ。

「その時の内容が正に私が横で聞いてた物でした。うちの母が霊的なものに詳しいのは家族にとって周知の事実ですから、兄はすぐに相談しました。すると母は――」
 ――テーブルにジュースかなんか置いて、それを飲んでてね。とでも言ってから出掛けな。
 と助言を与えたという。
「龍一は言われた通り、テーブルにオレンジジュースを置き、『お兄ちゃん、ちょっとお出掛けしてくるから、これを飲んでてね』と言って出掛けたそうです。そして夕方帰宅すると、テーブルのジュースは半分以上無くなり、女の子もいなくなってたそうです」
 以来、龍一さんは怪異に出遭うことはなくなったという。
「キャンプをした際に女の子の霊を連れ帰ってしまったようですね。とくに霊的に悪い土地ではなかったようですが……。きっと寂しかったんでしょうね。まあ、こんな話もあるってことです」
 三木さんは人好きのする顔で、そう締めくくった。


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コメント
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どーも猫の話に気が入ってしまい本文は頭に入らなかったわ
私は時間あれば道端に移したりしたことあるし敷地内で死んでた野良を埋めたりしたことある
轢かれたのも見たら何もしなかったことを後悔するし可哀想に思うよ
それを憑かれるとかで自己正当化して考えないのも嫌悪感あるけど弱い人達には仕方ない手段とも思うよ
私も稀にしか供養しないし…でも轢かれてるの見る度に何かしてあげたいと思ってしまう少しでも皆にも私にも勇気があって欲しいし努力もしたい
オカルトに逃げてばかりじゃ駄目なんだよ…憑かれても大丈夫なくらい強く成長せねば…

2015-02-21 04:04 │ from 名無しURL

同じく死んでる動物をほっとけないタイプです。つい泣いたり声を掛けたり道端に移動したりしてしまいます。見える友人によれば私は無数の動物の霊に守られてるとか。今まで飼ってたペット達かなぁ…

2017-03-22 08:30 │ from 零URL

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