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ママねんね

 平日十時過ぎの小田急線に、矢田君が乗っているときだった。
 どこにでもいる中年サラリーマンが目の前にいたという。
 混雑する電車では近くにいたくない存在ナンバーワン。
 小太りで酒臭く、後退している髪は整髪料でぴっしり撫で付けてある。
 匂いを軽減する為、矢田君はマフラーを鼻先まであげた。
 矢田君も中年男性もドアにもたれかかり、ちょうど向かいあうような格好だった。
(ちけぇな……)
 離れたかったが横にも後ろにも人がいる。
 両手には荷物があるせいで携帯もイジれない。
 矢田君は退屈しのぎに、中年男性の携帯画面を眺めた。男性は酔っ払っているためか周囲への警戒もなく、あけっぴろげに携帯で誰かとLINEのやり取りを繰り返していた。

 きよみ:おなかすいた
『まっててな。もう少しでかえるから』
 きよみ:みずのみたい
『今朝たくさんのんだだろう』
 きよみ:もっと
『今朝たくさんのんだだろう』

 中年サラリーマンは予測変換で、全く同じ文章を返した。
 矢田君は目の前の男が誰と、どのような関係でやり取りをしているか不審に思ったという。
(娘かな?)
 だが内容はペットへの扱いのような内容だ。

 きよみ:ママおきない
『まだ眠るんだよ』
 きよみ:ママねんね
『ママねんね。ずっとねんね』
 きよみ:おきる?

 LINEの画面と、男の顔を、矢田君は交互に見つめた。
 掴みあいのケンカを終えたときのような動悸がする。
 頭の奥がチカチカと点滅して勝手に脚が震える。
 目が離せない携帯の画面には続きが打たれた。

『バ』
『カ』
『が』

 中年サラリーマンは一字ずつ打つと、矢田君と反対の方向を向いてしまったという。
 矢田君が問い詰めようと逡巡している間に、男は降りてしまったそうだ。

「次見かけたら、マジとっ捕まえて詰めてやろうと思ってるんです。俺の勘違いでもいいんすよ。けどマジで、マジでフツーのおっさんなんすよ。ツラ忘れそうになんのが、一番こえーんすよ」
 俺、他人に迷惑さんざんかけましたけど、子供のことだけは、我慢できないんすよ。
 苦いものを口にしたかのように矢田君は顔を顰めた。

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