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不気味な建物

 美佳さんは大学生のころ、廃墟と呼んでも差し支えないマンションに入ったことがあるという。
 いや踏み込むまで廃墟そのものだと思っていた。

 突然の休講で暇になった午後のことだ。。
 本厚木駅からバスに乗って十分程。四十戸から五十戸ほど入りそうな大きさだった。
 コンクリートむき出しの灰色の建物は取り壊しが決まった倉庫のようにも見えた。
 友人と二人、どちらからともなく柵を乗り越える。
 この時美佳さんは破れた金網にふくらはぎを引っ掛け、軽い傷を作っている。
 中央にどんと鎮座する、錆びた金属製ドアに手をかける。軽い抵抗を感じたが開いた。鍵はかかっていなかった。
 集合ポストが出迎える。左右には廊下に続くであろうドアがある。こちらも入口同様に金属製であちこち錆ついている。塗装も剥げムラ染めTシャツのようになっている。
 階段には赤褐色のカーペットが敷いてあった。

 ポストにはカタカナで名前が貼られ、郵便物が入っている。
(人が住んでいるんだ)
 美佳さんは驚きを抑えられなかった。小声で友人に「こんな所あるんだね……」と囁いたという。
(だけど、どうしよう)
 探索を続けたいが、住人に見つかったら叱られるんじゃないだろうか。
 友人が言った。
 もし住人に咎められたら、猫が迷いこんだと説明しよう、と。
 なんて頭のいい、とつい感心したという。

 好奇心の赴くまま階段を昇りはじめた。
 手すりは錆つき、バリアフリーとは程遠い急な段差。まだ夕方前というのに薄暗い。設計する上でミスをしたとしか考えられない窓の少なさだった。
 一階分昇ると、両開きの朱色のドア。
 片側だけ押し開き、美佳さんはそっと廊下に足を入れる。
 硫黄温泉そっくりの匂いが鼻をつく。
 ホテルのような内廊下仕様だった。
 外に面する壁には朱色のフィルムが貼られていたため、廊下全体が臙脂色に染まっていた。

 違和感はおびただしかった。

 部屋数は中央から見て左右に十戸ほどあった。
 廊下を進むと、鉄の格子がはまった窓から室内の様子がうかがえた。
 そっと覗きこむ。
 細長い部屋には生活感溢れる台所と二段ベッドが見える。生ゴミが無造作に放置され蛍光灯に照らされている。
 住人と目があうことに怯えながら、美佳さんはさらに隣の部屋も覗き込んだ。
 打ちっぱなしのコンクリートの床に、見たことのない柄の毛布が積まれてあった。
 異国のものらしき什器が並ぶ隅に、ポリバケツに詰まった動物の内蔵らしきものがてらてらと輝いていた。
 老朽化が進んだ床は、ぎぃ、ぎぃ、きしみ音が激しい。
 その音に混じり、あぁ……うぁ……と、野太いうめき声が聞こえたところで友人が袖を引っ張った。
 美佳さんは黙ったまま頷き、静かにドアをあけ階段スペースに戻った。

 四階の奥には会社があった。表札の名から察するに、映像会社と思えた。壁に乱雑に貼られたポスターからアダルト映像系の会社に違いなかった。
(こんな所にも会社なんてあるんだ)
 さらに最上階に昇るとさらに驚いた。そこは比較的綺麗な、そしてスペースを明らかに持て余した本屋が入っていた。そのフロアだけはいやに蛍光灯が明るかったという。
 美佳さんと友人は、狐に摘まれたような思いで本屋を軽くひやかし、後にマンションから出たそうだ。後から考えれば、本屋で一度も「いらっしゃいませ」と言われなかった。

 それから十年。
 美佳さんはふと思い出し、図書館とネットを駆使し調べたが、何故かその場所にマンションが建っていたという記録はなかったそうだ。
 あれだけ大きなマンションが記録漏れをするとは考えづらかった。
 そして更に不可解なことに、一緒に入った友人が誰だったか、どうしても思い出せない。 
 と美佳さんはその時引っ掛けた傷の跡を撫でながら、語った。


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状景描写がうまくて在々と建物の様子が浮かんできました。

2015-06-24 06:42 │ from 名無しURL

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