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Aさん


 浅谷さんが前述のAさん含めた数人、昔からの友人同士で集まっている時だった。
 一人が「自宅の様子がどうも変だ」と言い出した。
 結婚して引越しをしたばかりの明美さんが、暮らし始めた部屋に違和感があるという。
「部屋から軋む音がする、それくらいだったら不思議じゃないんだけど……」
 消したはずのテレビがお風呂上りには点いている。動かした憶えのない位置にスマートフォンがある。
「そこまでも、まぁあるかな……って思ってたの。自分を納得させられていた。ただ最近、変な感じが住み始めた頃より明らかに強くなってるの……」
 帰宅して電気を点けると影がさっと動いたような気がする。猫でもまぎれこんだのかと部屋を隅から隅まで探したが、何の生物も見つけられない。
 時折ぺしぺし、と軽い音がする。一番近い音は脱いだ靴下で床を叩く音だそうだ。
 違和感は強まっていくばかりだという。

 その場の流れで、皆で明美さんのアパートを訪問することになった。
 Aさんが「視える人」であることは周知だ。
 浅谷さん自身も多少の霊感はあった。
 到着してそうそう明美さんから「何か感じる?」と尋ねられる。実のところかなり怯えていたのだろう。
 浅谷さんは頷いた。
「ねえ、何がいるの? もし棲みついていても、怖いやつじゃないよね?」
 明美さんの問いに浅谷さんは口ごもった。
 部屋に入った瞬間、背筋がぴっと冷えた。ただ何か視えたわけではない。浅谷さんの肌が、アンテナが感じただけだ。
視界をかすめる影も物音も感じられなかった。
(今のタイミングじゃ現れないのかな?)
 大勢の人間がいると気配を消す霊がいる。
 警戒深いのか、それとも小心なのか。
(今日だけじゃわからないかも)
 友人の力になれないのかもしれない、浅谷さんが弱気になると、Aさんが代わりに答えた。
「うん、 いるいるいる。今もあっちの部屋の隅にいる」
「どんなの、どんなやつ?」
 明美さんは早く安心させて欲しいとせがむように促した。
 浅谷さん自身も知りたかった。好奇心から続きを待った。
「あなたの部屋に」
  Aさんは一拍おいて答えた。
「赤ちゃんがいるわよ」
「……赤ちゃん」
 もっと禍々しい何か――例えば首を釣った女や内臓のはみでた男を――想定していた浅谷さんは拍子抜けした。
 もちろん友人の住まいということを鑑みれば、赤ん坊の方がまだ良い。
 明美さんもとりあえずは安堵した表情を浮かべている。
「そう、一歳にもなってないような赤ん坊が。あんた早く引越しなさい」
 ――かまってほしくて堪んないみたいよ。
「今さっき、あっちの部屋から、ヤモリみたいに異常に早いスピードのハイハイで駆け寄ってきたかと思うとあんたの肩にバッて、乗っかったわよ。肩重くない? 今もしがみついてるの。この感じだとワルサがどこまでエスカレートするか私にもわかんない」
 なるべく早い方がいいわよ、と忠告するAさんに泣きそうな瞳で明美さんは頷いたという。
「けど、どうしてまた赤ちゃんが」
「さぁ?」
 どんな因縁で家に赤ん坊が棲みついているのか、その謂われまではAさんにもわからないそうだ。


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2016-03-01 06:38 │ from 名無しURL

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