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蟻地獄

 夏だった。
 ヨシノさんはいつもの帰り道、白いブラウスに汗の染みがくっきりついてしまうくらいの熱帯夜だったという。
 駅から自宅までが、ゴミ捨て場が短い間隔にある路地だった。
 曲がり角からぬっと男が現れたが、ゴミ袋を持っていたので安心したという。
 男は半袖シャツにリュックサック、短髪にメガネとどこにでもいるタイプだった。
 ヨシノさんもゴミ収集前日の夜に出すタイプだったのでどことなく親近感も湧いたという。
 横をすり抜けようとした時、男は乾杯のようにゴミ袋を掲げた。視線があったがすぐにヨシノさんは逸らした。
 突然、視界が黒に染まった。
「なに、なに、なんなの?」
 慌てて顔を払うと、プチプチプチプチとなにかが弾ける音がし、土の匂いが鼻をついた。
 目をこすり、薄目を開けるとブラウスが黒く輝いていた。
 輝きは蠢いていた。もっとよく見ようとする前に、
「イタっ!」
 痛みが走った。ハチに刺されたときのような涙が出る痛みだった。
 その痛みは頬に、鼻に、額に、首に、下着の中で同時に起きた。
 ヨシノさんは身を捩り痛みから逃げようとしたが止まらない。
 事故にあった時のようなパニックだった。何も考えられなかった。
 それでも涙目で男を確認すると、ゴミ袋に手を突っ込み、砂のようなものをすくっていたという。そしてすくったものをヨシノさんに投げた。
 顔にぶつかる前に手で払うと、痛みの原因がハッキリした。
 掌に残り、蠢いていたり潰れたりしているもの、それは蟻だったという。
 今、体を黒くコーティングしているものが大量の蟻だと理解した。
 即座にヨシノさんは叫んだという。その叫びを合図に周囲の住宅に一斉に電気が灯った。半狂乱になりながら振り払おうとしたが、無数の蟻は汗で肌にべったり貼りついていた。
 痛みで暴れるヨシノさんに狼狽しきった男は、
「お前ら女はほんとどうしようもねぇっ!」
 そう叫び、走って逃げていったという。近所の人から水を全身にかけられるまで、ヨシノさんは叫び続けたという。

 翌日からが悲惨だった。
 蟻に噛まれた部位が赤く腫れ熱をもち始めた。
 そして発狂しそうになるほど痒くなったという。
 あまりの痒さにヨシノさんは噛まれた部位を切り刻みたくなるほどだった。
 顔から胸から腿から膿がたれ、その夏はずっと肌をだせなかったという。
「犯人を殺してやりたい」
 それ以来ヨシノさんは黒いものが全てダメになったという。黒い服はもちろん、夜も電気を消して眠れない。
「男の人とも付き合えません」
 全ての男がそんな変質者ではありません、そんな私が口にした一般論にヨシノさんは首を振る。
「蟻は下着の中にも食い込んできたんです。こんな爛れた胸、見せられるわけありませんから」

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コメント
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女の子可哀想に…一生のトラウマですね。犯人が許せない!!
だけどどうやって大量の蟻を捕まえたのだろう…

2016-07-08 09:51 │ from 零URL

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