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ひばりヶ丘の酒処

 知人より「近所の心霊現象が起きる飲み屋に行かない?」そう誘われ、ひばりヶ丘に足を運んだ。
 駅北口より徒歩八分。上品な店構えに、ここに怪異が起きているとはピンとこなかった。
 店をオープンしてからソロソロ六年なの、と笑顔のママさんが迎えてくれた。
 ビールより先に出していただいものは『座布団が飛ぶ』という怪異だった。
 一瞬脳裏にハテナマークが浮かぶ。
 ……それは座布団がスツールからずり落ちただけではないのか?
 姿勢が悪かったり何度も尻を上下すると座布団はズレる。次第に床に落としてしまうことを私は居酒屋でさんざんやってきた。椅子からずり落ちることだってしょっちゅうである。
 疑問が表情に出たのか隣の知人が補足してくれた。
「違うんだって、飛ぶってのは……つまり、本当に飛ぶの。座布団が横に、すべるように飛んでったの。しかも人が座ってたのに。ネ、ママ」
 ママさんは頷いた。
「そうなの。シャーって。お客さんが座ってたのに、かくし芸でマチャアキがテーブルクロス引くみたいに、シャァァァーって」
 誰かが引き抜いたような真横に飛んだという。
 ちょうど私が座っている席だった。端の席ゆえ障害物もなく座布団は入り口まで飛んでいったそうだ。
 お通しでビールをやっつけながら、他にもありますかと促すと、アラフォーの娘さんをもつママさんは教えてくれた。
「<飛んだ>で思いだしたけど、そこの絵あるでしょ、額縁に入ってるやつ」
 視線を移すと、出窓のようなスポットに大型の額が立てかけてあった。
「あれが飛んだの、ここまで」
 ママさんはカウンターを指で叩いた。
 距離は1メートルほど離れているだろうか。
 なるほど、と私は唸った。
 額縁の後ろはすぐに壁である。誰かが手を入れる隙間もない。風もないのに前に向かって倒れるはずがない。
「違う、違う。倒れてきたんじゃないの。飛んできたのよぉ、垂直に」
 よくよく聞くと、額縁はまるでジャンプするかのように、垂直に起立したままカウンターに乗ったということだった。
 その際、額縁は倒れなかった。
「倒れてたら壊れるでしょ? けど倒れないで、誰かがよっこいしょって動かしたみたいにそのままだった」
「マジすか」
 私が驚くと、同席していたお客さんが頷いた。
 ……マジっすか。二度目の台詞は飲み込んだ。
「他にもあるわよ」
 ウーロン割を手渡してくれながらママさんは続けた。

 ある日、客の一人と軽口を交わしていた時、エリさんは内心気分を害してしまったという。
「まぁこっちだって人間だしネ。その人も悪気があるわけじゃないの。ただ頭に浮かんだことをそのまま口にするタイプなだけで」
 やれやれと酒肴の準備をしていると、
 ――パーンッ!
 破裂音が店内に響いた。
 なんだなんだと、店内の全員で見回すと異変はすぐに見つかった。
 グラスを冷すための、壁際に置いてある冷蔵ショーケース。
「ほら、うちみたいな飲み屋って、水切りもできるようにグラスが下向きじゃない」
 だが中のグラスは全てひっくり返り、上向きになっていたという。

「不思議なの。だいたい私が嫌な思いするときに、変な現象が起きるの。自分ではね、守護霊さんだと思ってるけどサ」
 思い当たる節はありますかと尋ねると、ママさんの祖母が生前、東北の方で霊媒師をやられていたと聞いた。難事件を解決し新聞にも出たことがあるという。また店名は祖母の名に由来するそうだ。

 その他「扉が開かなくなる」、「じょうごが3メートルほどスライド」、「背後に女の子が」等々……本来であれば漏らさず聞きとり書き記すべきなのだが酔いどれの挙句忘却。蒐集家としてあるまじき行為である。反省。
 気になる好事家には来店をお勧めする。


酒処ほしの
(ひばりケ丘駅北口より徒歩8分)
http://tabelog.com/tokyo/A1328/A132801/13122477/
モツ焼きがぷりぷりして美味でした。
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