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節分にまつわる怖い話

「うちの地元だと、節分は町内で行うイベントでした」
 桧垣さんは二月三日、節分になると子供時代のあの日のことを思い出すという。
 彼の地元では節分は各家庭で行うものではなかったようだ。
 公民館に近所の子供達が集まり、鬼のお面をかぶって逃げ惑う大人の背中に対し豆をぶつけることが例年の慣わしだった。
 しかし当時、小学四年生。
 悪ふざけをやりたい年頃だった。
 桧垣さんの仲間も豆を手にすると鬼にではなく友達に投げたり、投げる前にパクパク食べたりするなど好き勝手にやっていたという。
 桧垣さんは幼馴染の悪ガキたちと一緒に戦争ごっこを始めていた。
 邪気を払う、なんて理屈も子供は理解できない。
 桧垣さんはただゲームのように豆まきを行っていた。
 勝ち負けのルールもない、ぶつけあうだけのゲーム。
 桧垣さんは友人と二人一組になり物陰に隠れた。
 いつでも投げられるように掌にいっぱい、豆は用意していた。
 ただ向こうも用心してか、なかなか現れない。
 次第に飽きたのか、後ろにいた友人が豆を桧垣さんにぶつけてきたという。
「いてぇよ!」
 笑いながら桧垣さんは振り払った。
 敵である友人たちはまだ現れない。
 退屈に比例して後ろから飛んでくる豆粒の勢いも強くなっていった。
「いたい、いたいってば」
 最初は笑いながら抗議していたが、豆のスピードはとどまることを知らない。
(やりすぎだよ、もう)
 桧垣さんは苛立ちを抑えていたが、耳の柔らかな部位に当たった時、かっと頭に血がのぼった。
「調子のんなよ!」
 振り向くとそこには、肩までの白髪をふり乱した老婆がいた。
 あるはずの両足は膝から一本に結合し、その先は溶けた飴玉のように公民館の床にくっついていた。
 老婆の目にあたる部分は真っ暗な洞穴だった。何も入っていない双眸が桧垣さんを睨んでいた。
 呆然とした桧垣さんは老婆が掴む手元に視線を送った。
 手のひら一杯の白いものは豆ではなかった。
 ところどころが茶色に汚れた歯だったという。
 茫然としたまま、桧垣さんが見つめていると老婆は、
「おにはおまえ、おにはおまえ」
 とケタケタ笑いながら、なおも歯を桧垣さんにぶつけてきたという。
 半狂乱になりながら桧垣さんは逃げた。

 その晩、桧垣さんは高熱を出したという。
 耳は化膿して餃子のように腫れ、何日も激痛が続いた。
「医者に行ったら手術を勧められたよ」
 切開の結果、医師は首を捻った。
「こんなのが入ってましたって両親に見せてた……まだ覚えてる」
 医師は紅く染まった犬歯を差し出してきた。
 その時、桧垣さんは医師の背後に、あの両目のない老婆が見えたという。
 がっくん、がっくんと首を赤べこのように揺らしていた。
 気が触れる前に桧垣さんの体は気絶することを選んだ。

 公民館が建つ前、そこは無縁墓地だったという。

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