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性の目覚め

 中学生時代、福澤さんは猿のように盛っていた。
「もうほんとにね……辞書に載ってる女性器名だけで、一人楽しんでたよ」
 阿呆であることは間違いがないのだが心から笑える男性はそう多くないはずだ。私だってそうだ。

 福澤さんが中二の夏休み、家族で祖父宅に行ったときにも下半身の疼きは止まらなかった。
 だが祖父宅には中学生向けの「オカズ」があるわけもない。調達ができそうな店もない。携帯電話も普及していない時代である。福澤さんは「発狂しそうなほど」困っていたそうだ。
 ふと倉にあったお祖父さんのコレクションを、福澤さんが好奇心から漁っていたときのことだった。
 美人画が数枚見つかった。
 どれも教科書で見たような浮世絵のタッチだったが、一枚だけ現代風に見えないこともない絵があった。
 振り返る長髪女性の白い衣装はややはだけている。
 下半身が反応した。
 どこか耐えるような、悔しそうな表情が、何より女性の哀れな表情が福澤さんの嗜虐心を刺激した。
「ふーん……」
 寸刻の後、福澤さんはズボンを脱いでいた。

 翌日から福澤さんは高熱を出した。
 四十度近い熱にうなされ何度も夢に髪の長い女が出てきた。
 美人画の女だった。
 女は絵に描かれていた様とは違っていた。心底嬉しそうな表情で、どこかわからない場所に佇みながら一心に福澤さんを見つめていた。
<くるしくてくるしくて、うれしい>
 夢の中ではよくあることだが福澤さんは身動きができなかった。恐怖に慄いているのだが足も腕も動かない。逃げ出すことも振り乱すこともできない。今にも鼻先にまで近寄ってくるのではないかと気が気ではなかった。
 女はそんな福澤さんを見透かしているのか、懐に入れていた手をゆっくり出した。白い着物にかくれていた指の先は剥き出しの骨だった。女は福澤さんを指した。
<みぃつけた、みぃつけた、みぃつけた>
 女はひとしきり嗤ったのちに消えた。
 目が覚めると陰茎は激しく起立していた。両親には何も言えなかった。
 翌日も同じ女を夢に見た。距離は近づいていた。はだけた着物からあらわになる乳房には蛆が湧き乳首は黒く朽ちていた。轢き逃げ現場の血を思わせる黒ずみだった。
 女は潤んだ瞳で福澤さんに縋った。
<くるおしいくるおしい>
<はよう、くくれ、くくれ>
 自分を切に求める妖艶な声を繰り返されると次第に現実と夢の区別がつかなくなる。熱に浮かされた頭に、女の媚びる声がさらに芯を痺れさせる。腐った乳房に触れてみたい、一瞬だが福澤さんは考えてしまっていた。
<おいで>
 それも悪くないように福澤さんには思えた。
<くるわせて>
 福澤さんは頷いた。
 抗うことのできない誘惑だった。

 昼に目を覚ますと痛いほど勃起していたという。そんな間の抜けた福澤さんを家族一同が囲み、蒼くなって見つめていた。
 今あんた泣き笑いしとった怖いくらい笑っとった、そう泣き出しそうな母親に告げられた。
 大病ではないか、変なものを食べさせたか、すわ入院か……。
 旅先での高熱に家族一同はだいぶ焦っていた。
 だが騒ぎをよそに、お祖父さんは福澤さんの表情と股間を交互に眺め、一度だけ「お前倉に入ったか?」と尋ねた。
 首を振る福澤さんに、
「うん、なんか保管しとった幽霊画が汚れとってなぁ……」
 とお祖父さんは悲しそうに呟いたそうだ。
 お祖父さんは倉にある幽霊画をまとめて焼いた。
 それに影響されたかのように福澤さんの熱もすっかり下がったという。
「まぁやっぱりあれだよ、中学生男子はほんと、見境ないってことだよ」
 今はもう二十数年前のことを思い返し、福澤さんは自虐的に嗤った。


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コメント
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猿より質が悪いですね。人の雄は。

2016-08-12 12:39 │ from 名無しURL

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