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男と爬虫類 二題

 倉本という男が酒を飲んだ帰り道のことです。
 昭和の宮城での出来事です。
 ふらりふらりと歩いていると雪が降ってまいりました。
 しんと静まったなか、倉本は酔った頭でしきりに考えます。
 ――はて、今はそんなにも寒いのか。
 三月も終わりです。降らないということはありませんが、その土地ではめったにないことでした。
 だが酔っ払いです。
 そんな気候の異変よりも アルコールで火照った頬が冷まされる冷やっこさに、倉本はひたすらに良い心地でした。
「死ぬんだとしたら、ちょっとこんな日がいいなぁ」
 倉本の叔父は戦争で腹を撃たれ、現地の子供たちに好奇心のまま観察されながら死んだといいます。
 であれば今、雪の降る最中、眠るように死ねたらのならそれは幸せであるのかもしれません。
 脳裏に仕事の失敗がよみがえります。過去の不愉快なことが思い出されます。
 倉本は木の根元にごろんと横になりました。
 人の通りはありません。
 三月はいえ凍死してしまうかもしれない、と倉本は思いました。
 それもいい。
 ――今を逃したら死ねないかもしれない。
 瞼を閉じると睡魔がやってきます。気づけば肌を刺すような寒さでした。さようなら。さようなら。
 
 倉本が目が覚めると日が差していました。朝でした。
 不思議と身体は冷たくありません。 凍てついた夜だったというのにまるで正月の朝のように満ち足りた気分でした。
 そして昨夜に自分がなぜあんなにも死にたかったのか、倉本は、まるでわかりませんでした。
 空は明るく蕾は開いています。輝いています。空に向かって花弁が開いていたといいます。
 倉本の視界に、地から這い出る一匹の亀が映りました。
 冬も終わりです。春の始まりです。


 × × × × × ×

 蛇を飼っている男のもとを、一人の女が尋ねてきました。
 男は初対面であるというのに、つい自室に招き入れました。
 女はたいそう美しかった、という単純な理由です。
 冷たさをもった切れ長の瞳が印象的だったとのことです。
 ただ誰ですかと問うても要領のえない返答ばかり。
 宗教の勧誘か訪問営業かと身構えますが、不思議とキチガイとは思いませんでした。
 それも女が美しく、美しいキチガイを男は見たことがなかったからです。
 女はガラスケースに入った蛇をじっと見つめ「食べ物、あげたいんですが」といいました。その要求は断り辛い切実さを帯びていたといいます。まるで連れ合いが死にそうなのです、とでも言うような。
 男は冷凍鼠を解凍し女に差し出しました。
「ほら、お食べ」
 なんとも愛おしそうな女の顔に、男はどこか寒気を憶えました。
 ケースの中の蛇が、緩慢な動作でゆっくりと鼠を咥えこみます。女の表情には恐ろしいほどの艶が浮き出たそうです。

 いよいよ帰りそうな気配を見せた女にもう一度尋ねました。「貴女は一体何者ですか?」至極当然な質問でした。
 舌をチロリと出したさまは――どこかで見たような、日常的に視界に入れているような、なにかの生物を思わせました。
「また来ますが、どうか大事に、大事に、大事に……」
 女が何のことを言っているのか、男はすぐに察しました。女の目はガラス玉のようにぴかぴか光っていたのです。


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