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たぶん最後が一番の嘘

 これからする話はエイプリルフールらしく嘘である。嘘の話である。増永さんという男性は存在しないし、私が聞いた話ではない。ゆえに聞き手である私が通報すべき案件ではない。

 2013年5月のことである。
 増永さんは市内のパチンコ店から車で帰っていた。
 朝一から行って、四万も負けた。気分は最低だ。苦いものを飲んだような苛立たしさを持て余していたという。
 途中、尿意を感じたので公園に寄った。公園はやや小高い場所にあった。
 用を足すと改めて後悔の念がこみ上げてくる。
(あそこで止めておけば……)
(今月の生活費どうすればいいんだよ……)
(あのクソ店は二度といかねぇ)
 茫然と煙草を吸いながら、足元に転がっている石を蹴った。石は公園を飛び出し、数メートル下に落ちて行った。もう一度手頃な石を蹴る。石は落ちていった。
 少女の小さい悲鳴が聞こえた。
 増永さんは柵越しに上から覗き込んだ。
 中学生くらいだと思われる制服姿の少女が、しきりに周りを見回している。
 増永さんの胸中にむくむくと悪戯心が湧いてくる。
 少女の横に水たまりがあった。あそこに石を落としたら、水飛沫にさぞ少女は驚くだろう。そう増永さんは考えた。汚れる少女を見て気分を晴らしたい、そんな欲求だった。
 適当な石が見当たらなかったので、ベンチ下に落ちていたやや大きめな石を選んだ。蹴ると痛そうだったので、増永さんは数メートル下の水たまりをめがけて投げた。
 増永さんは言う。
 ――本当に傷つけるつもりはなかったんだ。ムシャクシャしてて、誰かのビビってる姿を見たかっただけなんだ。水たまりを狙ったんだよ、俺、マジで。
 だが石は水たまりには落ちなかった。
 ――ガキに当たっちゃったんだよ。
 増永さんは目を見開いたまま黙り込んだ。

 少女は幼児のように大声で泣き出したという。
(うわ、ヤッベェ)
 疑いようも無く、完全に増永さんの責任だった。
 焦った増永さんは慌てて階段を下り、停めていた自分の車に乗り込んだ。誰かが来る前に逃げなければと思った。
「賠償やら慰謝料やら」でお金をふんだくられるのはご免だ、と増永さんは考えた。
 バックミラーから確認すると、市役所行きのバスがやってきた。きっと少女が乗るはずだったのだろう。誰かが気づくだろうと思い、応急処置もせず車を発進させた。

 この手のタイプではありがちというか、増永さんは上記の出来事を数日後にはカンペキに忘れていた。だが一本の電話で思いだされた。
 電話の相手は疎遠だった地元の先輩だった。高校時代に付き合わざるえなかった怖い先輩だった。
「なぁ、お前さぁ、○○町に住んでんじゃん?」
 今時間平気か? と一応の確認をしながらも有無を言わせない雰囲気があった。
「……どうしたんすか」
「○○さんっていんじゃん」
 はい、と増永さんは答えた。
 ○○さんとは四歳年上の不良だった。今電話で話している先輩よりも、もっと怖い存在だった。挨拶は何度かしたが、個人的な話をしたことは一度もない。積極的に関わりたくなかったそうだ。
 ○○さんがAVのマネをして、舎弟二人に女を襲わせた事件はあまりに有名だった。
 今でも繁華街で見かけていたが、その際は必ず気づかないフリだ。
「もう知ってるかもなぁ。○○さんの妹さんさぁ、変態から石ぶつけられて入院してんだよ。重体よ重体。後遺症のこるみたいなんだわ」
 増永さんの背筋に電流が走った。
 確認するまでもなく、あの時の少女だと確信した。
 そんな大事になったいたのか。もしかしたら警察も動いているかもしれない。汗が噴き出た。
 だが平静を装って増永さんは答えた。
「マジすか。最悪じゃないすか……」
「あの人すごい妹さん可愛がってたから、それはもうキレまくちゃって。ぜってぇ犯人見つけ出して殺すって。で、俺らも協力するってことで、情報集めてんの」
「マジすか。自分も協力します」
 地元で情報集めてくれ、そんな指示を聞きながらも増永さんは、
(死ななくて良かったですね、なんてこと言ったらすげぇ怒鳴られるだろうなぁ)
 と他人事のように思っていたという。
 ただ電話を切った後に事態の大事さに遅まきながら気づいた。どう振舞うのが正解なのだろうか?
「いや俺もさ、嘘じゃなくて、ただ少女が大怪我して困ってるとかだったら、なんとかしたいなって思ったよ? 金を送ったりとかさぁ……。警察が捜してるんだったら、匿名で謝罪の手紙送ったりさぁ。けどこえー先輩探してんだもん。そんなの正直者になれないって、実際。法の裁きとか関係ないスタイルの人らだもん」

 黙っていれば誰にもわからない。バレるはずがないのだ。
 監視カメラ? そんなものがある都会じゃねぇ。
 警察だって怨恨以外の殺人には逮捕がスムーズにできない、と増永さんは言う。

 実際増永さんの想像通り、なにも起きなかった。
 警察からも〇〇さんグループから的にされることはなかった。
 だが二、三日後から、増永さんが壊れ始めた。

「最初は夜、便所に行ったときだったのよ。便所に入ってドア閉めるじゃない。バタン……って。便器座ってションベン始めると、音がするんだよ。音はちょうど閉めたばかりのドアの前から……。工場で聞くような、金属が擦れあう音がするんだ。
 ― ―ヒィー……ン。
 ― ―ヒィィィ……ッン、ヒィィィィィン。
 隙間風がたてる音か? って一瞬思ったけど……。
 とにかく立ったよ。ションベンなんてひっこんだ。ドアノブに手をかけて、音の発生元を見つけようと思ったんだけど、ドアノブを回せない。本能的っていうか……。おっかない先輩の前にいるときみたいに、余計なことをするなって本能が訴えるんだ。黙って、じっとして、やり過ごせって……。
 五分くらいして、ようやくドアを開けた。
 なんにもいなかった。
 ドアを閉めて電気を消した。
 いた。
 確かにいた。
 暗がりの中にぼうっと、小さい頭が。小児の頭が」
 
 増永さんは声にならない悲鳴をあげた。
 だがそのかすかな悲鳴に被さり、消し去るように、金属音に似た音は響いていた。
 ――ヒィィィ……ン。
 固まる増永さんに、頭は近づいてくる。近づいてくると頭の下が見える。首が見える。胴体は半分まで見える。
 いつしか座りこんでいた彼はまじまじと見つめていた。
 頭は女児だと確信した。
 先日、傷つけた女児だと確信した。
 こちらに思い知らせるかのように、抉られた傷跡が額から走っている。泥を思い切り蹴るとあんな感じの跡になると増永さんは言う。
 真っ黒の瞳をした女児は真っ黒の口を開ける。
 ―― ヒィィィィィン
 それは叫び声だった。苦しみをあげる悲鳴だった。
 肩から上腕は見えないというのに、指が見える。右腕の人差し指。こちらを指さしていた。 
 そこでようやく増永さんは意識を失うことができたという。

 後日知った。
『石がたまたま当たった』少女は小学五年生。○○さんの年の離れた妹。
 舞衣という名の女の子。
 石は彼女の頭蓋内にダメージを与え、右腕が麻痺する後遺症を残したという。
 幸いなことにというべきか、命には別状はなかった。
 時間が経つにつれ、熱の冷めた〇〇さんグループも犯人探しを諦めたと聞いた。

 が、増永さんの前に少女と思われる霊は引き続き出現した。
 昼の公園、パチンコ屋の便所、深夜の枕元。
 決まって指をつきつけているという。
「マジそんときは超病んだよ、俺。いつ現れるかわかんねーんだもん。不整脈が起きるみたいに、タイミングわかんなくて、もうそれに怯えるばっか……。眠剤もすげー喰ったよ、そん時。寝てれば見なくて済むから。けどそんなのやってたら仕事もできねぇし、親から金貰ってギリギリで生活してたし。だから一念発起して東京出てきたんだよ。正解だったね、マジで。食うのにも、女にも困らないわ」
 上京して以来、霊現象は体験していないというが、増永さんは「今も後悔している」と言う。


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