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プレゼント

「お正月のお休みに有給もプラスして……」
 去年、橋本さんは年明けを北欧で過ごした。
 二週間ほどの海外旅行は充実したもので、その後の会社は憂鬱で仕方がなかったという。
「空港から電車に乗って、やっぱり家が一番だなぁんあて言いながらアパートに帰ってきたの」
 荷物を置いてリビングに入ると、足元からパチっと乾いた音がたった。
「?」
 電気をつけると、床にまんべんなくトンボの死骸が撒かれていた。
 橋本さんが反射的に脚の裏を見ると、トンボのシーチキンのような臓物がへばりついていたという。
 窓ガラスの鍵は開いていた。
「盗られたものはなかったんだけど……」
 そのせいか警察に通報しても、あまり真剣な対応は得られなかったという。結局は変質者の悪戯という線に落ち着いた。

 そんな不愉快極まりない嫌がらせもあったが、引っ越す予算もなかった。
 日々の忙しさに追われているうちに徐々に遠い出来事のように思えてきたという。
 ゴールデンウィークの一ヶ月前、湯船に浸かりながら橋本さんは連休の予定を考えていた。
 海外に行きたい欲求がまた湧いていた。
 以前に旅行したタイももう一度行きたい。それとも近場の韓国にしようか……。
 胸を躍らせていたという。
 橋本さんは計画に夢中で、室内で起こったささやかな物音には気づかなかった。
 突然、ブレーカーが落ちた。
 首をかしげながらも、慌てて浴室から出た。
 ブレーカーはどこだっけ?
 暗闇の中、見当をつけて足を踏み出すとカシャッカシャ、と音が鳴った。
 足の裏に麦チョコを踏んだような感触があった。
「ひゃっ」
 橋本さんが驚いて後ずさるとまた「カシャッ」と小気味良い音をたてる。
「何なのよ……」
 やっとの思いでブレーカーをあげると、床一面に乾燥したハエの死骸がばら撒かれていたという。
 家のドアが少しだけ開いていた。
 隙間から、暗い瞳が覗き込んでいた。
 橋本さんは町内に響くような音量で叫んだという。

 人影は逃げていった。
 急いで鍵を閉めると、橋本さんは泣きながら携帯をとりあげた。
 すでに足の裏は真っ黒になるほどハエを踏みつけている。
 通報し終え、震えながら足を拭いていると一枚のメモが目に入った。
 小学生低学年のような、字を習いたての人間が書いたであろう文字だった。大きさがバラバラだった。
「おれいはいりません」
 一連の流れは嫌がらせでなく、プレゼントだと理解したという。
 犯人はいまだ捕まっていない。
 うっすら見えた肌の色から外国人の仕業だと橋本さんは考えている。

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