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帰省時の怖い話

 年末の帰省時、井上さんは実家のある富山県のある町に帰った。
 そこは大規模な工場が最近全面撤退したせいで、「町」というより「村」になりつつある地元だった。
 大晦日、親戚との食事会を終え、両親と自宅に着くと井上さんは携帯を忘れてきたことに気づいた。
 食事会の場所は歩いて十分ほどの親戚宅だったので、パッと取ってくることにしたという。
 母親からの「暗いから懐中電灯持っていきなさい」という忠告を「大げさな」と断り、家を出た。
 十八歳までは暮らしていた町だったので道中転ぶようなことはないと踏んだ。
 昔のように、短い橋を渡った。
 川からの反射に照らされ、アカシアの木々が「まるで影絵みたい」だったという。
 後ろを歩いている人も影絵のように真っ黒だった。
 夜道ではあるが女性が犯罪に巻き込まれた話は聞いたことがない。その点では何の心配もない。
 きっと二年参りに行く人なのだろうと井上さんは気にしていなかったという。
 道の反対に渡ろうと井上さんは走ってくる車を待った。車が過ぎてから渡るつもりだった。
 すれちがっていく車の灯りに照らされた後ろの人物は相変わらず真っ黒だったという。やはり影絵のようだった。
「それにおかしいんです。冬だから。絶対に重ね着しなきゃ寒くて外に出れないハズなんですけど……その人は裸みたいにほっそりしていて」
 その黒い何かを視界に認めつつ、井上さんは足を速めた。
(あぁ、嫌だな気味が悪いな……)
 釣具店の角を曲がると、交通量が多い、比較的明るい道路に出た。
 オレンジの街灯が足元を照らした。
 井上さんはほっと一息をついた。
(……勘違いかな)
 足元に視線をおくると、それが間違いだったと気づいた。
 街灯は二つの影をつくっていた。
 後ろの影がピッタリ1メートル手前まで迫っていたそうだ。
 お寺への道順とはとうに離れている。
 静かな夜だったので、背後から響く「ぺた、ぺた」と裸足がたてる音が聞こえた。
 もう後ろは振り向けなかった。異様な何かがいることは間違いなかった。
 早く消えて! そう強く祈って地面を見つめた。
 しかし消えるどころか影は伸びてくる。親戚宅までにはまだ距離がある。
 牛乳が腐ったような匂いが鼻を衝いた。
「ぬぼっ、ぬぼぼ、ふひゅんだらば」
 不明瞭な声に、鳥肌が全身にたったという。
 気配がすぐそこにあった。
「だばぬら」
 影が、井上さんの影に覆いかぶさろうとしたとき、
 ぼーん、ぼーん……ぼーん……。
 除夜の鐘が鳴った。
 影は「ふっ」とため息のような呟きを残し、消えていったという。
 親戚宅につくやいなや、井上さんの腰は抜けた。

 後日、その影について周囲に聞きまわったが、誰一人そんな話は知らなかった。
「だから、意味がわからないの」
 以来井上さんは帰省時の夜に、一人で出歩くことはやめているという。

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