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昔の恋人

 藤田は社会人になってから八年目の三十歳。仕事は中古車両販売。未婚で両親に限らず親戚一同から結婚を急かされるのがここのところの悩み。
 ワイシャツの袖からはよく日に焼けた腕があらわになっている。
 二ヶ月前に大学時代の友人の結婚式に出たという。
「同じテニスサークルの奴だったんだけどね、いい結婚式だったよ、親御さんたちもおんおん泣いてて。あー俺も早いとこ親を安心させなきゃなぁって思ったね」
 会社にも友人関係にも、女性を紹介してもらえるようなツテはなかった。
「二次会でさ、藤田クン、て声かけられたんだよ。一目で大学の時の彼女だってわかったよ。そりゃあ八年もすれば小皺もできるし雰囲気も変わるよ。けれどアイツのことはすぐわかった。向こうも同じだったんだろうけど」
 大学二年の時にサークルで知り合い、付き合った。そして卒業前に別れた。別れた理由はありがちなものだったという。
「社会に出てから何人かと付き合ったけどさ、やっぱ大学時代の恋人って特別なんだよ。お互い一人暮らしだったから半同棲みたいだったし。ぐわーって一気に懐かしくなって、もうお祝いそっちのけで二人盛り上がったんだよね」
 以前の彼女は卒業後関西に転勤し、去年東京に戻ってきたと言っていた。
「じゃあまぁ、今度ゆっくり飯でも食うかって話になって……」
 焼けぼっくいに火がつく、そんな訳ではないがここ一年、藤田は女関係の浮いた話はなかった。自然、翌週の待ち合わせ場所に向かう足取りは軽くなったという。
「学生時代には行けなかったような店を予約して、けどなんか照れくさくて、さっきまで仕事してましたって面を浮かべて会いに行ったよ」
 近況はすでに二次会で報告し終えていたので、ワインの薀蓄を披露したり映画の話をしたりと大学時代のようにとめとない話に興じたという。
 元彼女――彩音さんという――は学生時代にくらべ色気が増していることに藤田は気づいた。ルックスに大きな変化があったわけではないのだが、一つ一つの仕草や言葉遣いになんとも言えない艶のようなものが滲み出ていることに気づいた。
 いささか緊張していたのかもしれない、そう藤田は振り返る。
「あの日はしたたかに酔っ払ったよ」
 しかしそれは彩音さんも一緒だったようで、二件目の店を出ると二人ともおぼつかない足取りになっていた。
「でね、誘ったんだよ。ホテルに。元から下心があったわけじゃないけど……学生のときに一度行ったラブホがまだあったんだよ」
 空には月が輝いていた。彩音さんは赤ら顔で頷いた。
 そうして二人は宿泊プランでラブホテルに入ったという。
「俺がシャワー出るともう部屋は暗くなってて、あぁ彩音らしいなって懐かしくなって……昔からそうだったんだ。だから俺も昔みたいにゆっくりベッドに入って、体を寄せたんだ」
 しかしそこまで事は進んだものの、照れくささはどこか残っていた。
 以前はどうやっていたんだっけ?
 頭を捻るがアルコールに浸った記憶回路は充分に機能しない。
えいっと勢いに任せて抱き寄せると、彩音さんは泣いていた。
「どうしたんだ? って聞いたら『色々辛いことがあった』って。だから昔みたいに慰めたんだ。子供みたいに頭を撫でながら。『わかるよ、俺も嫌な目にさんざんあった』って」
 彩音さんの涙は長い間止まらなかった。
 布団をかけ直そうとすると一瞬、窓からの月明かりに照らされ、暗闇に裸体が浮かび上がった。
「え? って不思議に思った。なぜって……彩音の脇腹、ちょっと背中よりに――穴があったんだ。へその穴を大きくしたような窪みがあったんだ」
 もちろん記憶にはなかった。
 藤田は見間違いか確認しようと、頭を撫でていた手を背中に下ろし、そろりと窪みに触れた。穴は思ったよりも深かった。
 彩音さんは一層泣き声を大きくさせた。
 そして懇願のように延々と呟いた。
「嫌いにならない? 藤田クン嫌いにならない? 嫌なこといっぱいあったほんといっぱいあったの。辛くて辛くて死んでしまおうと何回も思った」
 聞いているこちらも悲しくなってきて、藤田は彼女を強く抱きしめたという。
 そのとき抱きしめた反動で指が窪みの奥まですぽっと入った。
 感触は『古くなった筋子みたい』だったという。
 すえた生ごみのような悪臭が藤田の鼻を衝いた。
 思わず指の匂いを嗅いだが、指にはなにもついていなかった。
 彩音さんは埋めていた顔をあげた。目が血走っていた。
「こんな体でも嫌いにならない? 昔みたいに抱いてくれる?」
 そう言ったという。いやそんな気がした、あまり自信がないと藤田は言う。
 彩音さんに擦り寄られた際、藤田の腿になにかが触れた。愛液の類でないことは感覚でわかった。
 掛け布団を慌ててめくると、悪臭が強くなった。なにか液体が腿に付着していた。
 シーツに黒い筋子のようなものが、三腹横たわっていた。
 嫌な予感しかしなかった。ベッドに入ってからすべてが異常だった。
 藤田は仕事を言い訳に、急いでホテルから出た。スーツにも付着した液体の匂いはなかなか落ちなかったという。
「後から考えれば……アイツ、近況報告のときも、東京に戻ってからの話しかしなかったんだよ。関西で何があったか一切言わなかったんだ」
 翌週に意を決して連絡したが、すでに彩音さんの電話番号は使われていなかったという。

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コメント
非公開コメント

どういうこと?
なんだったの?筋子

2013-12-22 04:16 │ from 名無しURL

身体に筋子が生えたのか…??

2014-02-01 13:17 │ from 名無しURL

人工肛門かな…

2014-05-13 00:23 │ from 名無しURL

でもストーマだったらパウチ付けてるはずなんだけどな…

2014-12-12 01:11 │ from 名無しURL

No title

そもそもストーマなら、背中側にはならないよね

2015-05-16 23:07 │ from 名無しURL

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