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ラーメン

 営業先のとあるエリアで、一仕事を終えた小池さんは腹ペコだった。
 小池さんはいわゆる『ラヲタ』ラーメンオタクだった。
 週末になると遠方まで出向いて話題のラーメン店を訪問する。
 今まで食べたラーメンは二百杯にものぼるそうだ。
 そんな小池さんだったがその日は忙しなく、ハズレでもいいと目についたラーメン屋に飛び込んだそうだ。
 ごま塩頭の、快活な中年店主が迎えた。ランチタイムを過ぎたせいか客は一人もいない。
 小池さんはろくにメニューも見ずに注文した。
「ラーメン大盛りで」
「すんません、お客さん初めて? ブログ見た?」
「は?」
「見てない? じゃあ今度違う日にも食べにきてよ、今日はスペシャルなんだわ、うちのラーメン」
「ほう、本当ですか、じゃあそれで」
 なんだかよく判らないが、限定商品に当たる日であればなんとなくついている気がする。
 なんせスペシャルというのであれば定番ラーメンよりも凝った作りのはずだ。
「どんなラーメンなんです?」
「なんとな、黒いラーメンなんだ」
「へぇ。スープは何から?」
「……なに、あんた雑誌の人?」
 店主は嫌そうに眉をひそめた。
 ラーメン店にいかにもいそうな、悪い意味でのガンコさが滲みでていた。
「や、違います」
「そうか、ま、食ってみてくれ。スープにアレ使っただのコレ使っただの、そういう薀蓄は好きじゃねんだ。具材じゃなくて味で判断しろってんだ、なぁ?」
 小池さんは曖昧に頷いた。 
 黒いラーメンというと、出張で富山に行った際に食べた濃い醤油ラーメンが思い浮かぶ。
 しばらく待っていると、店主は真っ白の丼を寄越した。
 旨そうな匂いが立ち上っている。
 これは大当たりの店を引いたんじゃないか、小池さんは匂いを嗅ぎながらそう思った。
 後でインターネットで調べてみよう。
 知る人ぞ知るラーメン屋なのかもしれない。
 小池さんは真っ黒に染まったスープを啜った。
 てっきりしょっぱいかと思ったが、そうでもない。
 上品で滋味に溢れる、高貴な味だった、
 チャーシューをかじる。旨みが口腔内で弾け飛んだ。
 小池さんは無我夢中で麺を啜った。
 ――このスープは一滴たりとも残せない。
 惜しいのはこのラーメンが定番でないことだ。
 いつ同じものが味わえるか判らない。
 その時、店に宅配の人間がやってきた。具材の配達のようだが、どうやら量に手違いがあったらしく、店主がトラックまで確認しなくてはいけないようだった。
「すぐ戻ってくるから食っててくれや」
 はぁ、と頷いた小池さんに好奇心が沸きだった。
 カウンター越しに、スープが詰まった寸胴がある。
 手を伸ばせば蓋を開けることができる。

 小池さんは躊躇しなかった。
 身を乗り出し、蓋をあける。
 真っ黒なスープの表面にはリンゴや玉ねぎがそのままの形で浮いていた。
 どんな秘密があるのだろう?
 この黒さはなんだろう?
 小池さんは好奇心に突き動かされるまま、おたまを掴み、底をさらうようにかき混ぜた。
 墨汁のような汁の中で、大きな黒い影が浮かびあがった。

 頭が二つある、黒々としたカラスだった。
 艶々と光る羽は生きている時と遜色がない。
 煮込まれた双眸は煮魚の瞳と同じに、真っ白だった。
 開いた二つのくちばしが水面から突き出て、また沈んでいった。

「いや、もう、どうしようもねんだよ、最近の若い奴は。お、完食したみてぇだな、どうだった?」
 とても旨かったです、小池さんは吐き気を堪えながらそう答えた。
 九割残っていたラーメンは全て便所に流したが、一割が胃に入っている。奇形のカラスを使ったスープが胃に入っている、そう考えるだけでこみあげてくるものを止められない。
 会計を済ませ、すぐさま脇道に入ると小池さんは空っぽになるまで胃の中を吐き出したそうだ。
 通りに戻ると、ごま塩頭の店主が立っていた。
「旨かったかぁ? また来てくれよなぁ。まいどっ」
 愛想笑いさえ返せず、小池さんは逃げ出したそうだ。

「あれから、ラーメンはダメだね。一度食ってみりゃいいよ。俺はもういい。今は寿司食うから、それでいい」
 と小池さんは言う。
 現在、そのラーメン店は存在しないそうだ。

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コメント
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カラス煮たところで
黒くなる訳ねえだろwww

2013-09-03 17:28 │ from 名無しURL

猟師は普通にカラス食うよ?

変なもんみたいに書かんでくれよな。

2015-07-12 06:24 │ from ばさまURL

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2016-01-18 00:06 │ from URL

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