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誰にも知られたくない

 不二井さんは三十代後半、独身。
 仕事からアパートに帰宅すると、全裸になり寝転ぶ癖がある。
 床には赤ん坊の写真が敷き詰められている。全て女児である。

 主に産婦人科のサイトから新生児の写真を見つけ、それを名刺サイズに印刷し、眠くなるまでその上でころころと転がるという。

 不二井さんは両親が年に一度、訪問してくることが嫌でたまらない。
 失踪を真剣に考えている。



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ほそながい

 向山さんが帰路についているとき、自宅まであと五分というところの路上で――鶴のような首筋をした女が立っていた。
(こんなところで人待ち?)
 ちらりと視線を投げかけ、途端に引っ込めた。
 ヘチマのようなしゃくれた顎が突出し、瞳が蜻蛉の目玉のようだったという。

 足早に通りすぎると、後ろからついてくる気配がする。
 家の前に辿りつき振り向くと、10メートルほど後ろに女は佇んでいた。
 顔はよく見えるが、胸のあたりが透明に限りなく近かったという。
 向山さんはため息をついて、その後一時間近く歩き回って『捲いた』そうだ。
 そのまま家の中まで連れていかないようにする為だという。
「浮遊霊か生霊だか知んないけどねぇ、この年なってまで、こんな理不尽な思いしなくちゃいけんかねぇ」
 霊が視えるといって、良いことなんて何一つないと向山さんは言う。

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隣の部屋が

 川辻さんが学生生活を送っていたアパートは異様に壁が薄かったという。
「煩いんだろうなぁとは思ったけど、家賃安かったから」
 家賃が安ければその分浮いた仕送りを遊びに使えると考えたそうだ。

 彼の部屋がある階は三部屋あり、真ん中が川辻さんのワンルームだった。
 右隣にはバイトに明け暮れる男子学生、左隣は女子大生だったという。
「隣に女子がいるってわかったときはアガったけど、名前もわからないし彼氏もいたんだよね」
 月に一度か二度、彼氏をアパートの部屋に連れ込んでいるようだった。
 川辻さんは薄い壁に耳をつけ、セックス音をたびたび聞いたという。
「まぁ聞くっしょ、年頃の男なら……けど興奮したのなんて最初の二、三回だぜ? あとは惰性だよ。なんつーか聞かなきゃ損みたいなさ、わかるだろ?」
 女の顔は川辻さん曰く『中の下』だったという。
 彼氏の顔は見たことはないが、セックスは比較的激しかったそうだ。

「その日も左隣から話し声するなぁって思って壁に耳つけたんだ。どうも女の声で、友達なんだろうなぁって思った。そんなの聞いてもしょうがないから、出かけようと思ったとき、耳離せなくなったんだ」
 隣の会話は逼迫した様子だった。
「……でしょ? だから早く出た方がいいって」
「でも……×××ってないし、まだ×××くらいだから、なかなか、ね?」
 細く高い声で会話をしているせいで会話はわかりづらい。
 どうも女友達と思われる人物が熱心に促しているようだった。
 一方住人の女は戸惑った声をだすばかり。
 つまらないと思った川辻さんが腰をあげようとすると、奇妙なフレーズが耳に飛び込んできたという。
「……×××?」
「そんなこと言って……×××、×××、なんだよ? 霊道なんだよ?」
「でも……」
「あんたの住んでるこの部屋、あの世の入り口だよ」
「言っておくけど、次は私こないからね。今だってもう厭だ」
「死んじゃうから。とんでもないよ」
 二人は会話を終らせると、バタバタと出て行った。
 そして隣の女は二度と帰ってこなかったという。
「俺さ、霊感とかわかんないけど、以来隣に越してきた奴、みーんなすぐ引っ越していったんだよ。俺? うん、なんか気味悪くてなぁ、二年にあがるときに引越したよ」
 その間の怪異現象の有無を尋ねるとこう答えた。
「そうだなぁ、霊とかは見たことなかったけど……」
 時折、ゴォー……ゴォー、とまるで掃除機に似た音が聞こえたという。
 音量はとても家電とは思えないほどの大音量で、しかし数秒で掻き消えたという。
「たまにアパートの住人が隣に怒鳴りこむんだよ。うるせぇって。けどだいたい人がいなくて、諦めて戻っていったよ」
 神奈川県伊勢原市にあるアパートでの話だという。


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色情霊

 多枝子さんは胸の形がよくわかる、Vネックのストライプ柄シャツを着こなしていた。化粧の匂いが鼻の悪い私にも届いた。
 メニューを眺めている時、ベージュのブラジャーがちらりと覗いた。
「金縛りがずいぶん多いの」
 霊感はないが多枝子さんは再三にわたって金縛りにあうという。
 ふいに目が醒めると身体が固まっている。
 何かが視えることはない。
 あるのは触れられる感覚だけという。
「真っ暗な部屋で起きると、もう身体はガチガチに固まってて。さわさわ触ってきたかと思うと、足をガッと掴むの。イメージできるかわからないけれど……脚の中身だけを持ち上げられて、落とされる感じ」
 この現象が今まで幾度も起きているという。
「まぁそれだけならね、脚がつりやすいとか、下痢がしやすいとか、そういった類の人体の癖みたいな感じで受け取れたんだけど」
 先日金縛りの中で目を覚ますと、触られる感覚は脚にいかず、胸元に伸びてきたという。
 多枝子さんは驚き身をよじって逃げようとした。
 だが金縛りは解けない。
 いつも以上に金縛りの強烈さを意識した。
 拘束されているも同然だった。
「最初はただ触れられる感覚だけだったけど……次第に、その揉まれる感じになっていって……。ゆっくり揉まれたかと思うと、ぐいぐいと食い込んでくる指の感覚があって……」
 乳首をつままれ、多枝子さんは声をあげたという。
「それが……自分でも恥ずかしくなるくらい切ない声で。自分で左右の乳首が硬く尖っているのがわかるの。身体を動かしたくなってもどうにもならなくて。本当にあれは参ったわ」
 多枝子さんが話している間、私は彼女を見ないようにしていた。
 居心地の悪さを心から感じていた。
「ずうっと胸を揉みしだかれて、刺激を与えられて……。それでもハァハァって息吐くしかできなくて。切なかったぁ。……あんな姿、娘に見られなくて本当に良かったわ」
 そうですね、と私は相槌を打ってから尋ねた。好奇心から尋ねずにいられなかった。
「最後までされなかったんですか?」
 挿入のことを指した。無論多枝子さんにも意味は伝わっている。
「その先は……」
 多枝子さんは黙った。そして濁した。質問を繰り返すことはしなかった。
「けどね」
 多枝子さんは恥かしそうに身をよじりながら言った。
「起きたらね……、濡れてなかったの」
 ああいうの色情霊って言うらしいね。
 ――また起きたらすごく困る、と多枝子さんは言う。

  多枝子さんは先月、御年六十三歳になられたばかり。
 まだまだ現役である。


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